続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

山に生きる人びと 宮本常一

 

 

 民俗学者宮本常一によるかつて日本に存在してた山の中で生活したり、山の中に村を形成した人びとへの考察。

 

 たぶん、現在ではこの本に扱われる山の人びとはもう存在しないと思われる。著者が調査をしていたころですら、かろうじて痕跡をつかむのがやっとのようである。山中の村は徐々に規模縮小し、人びとは里におりて平地民になっている。わずかなハグレモノをみつけるか、土地の古老に話を聞くことでしか情報は得られないのである。

 

 いつのころからか、ぼくはこの山の人々に興味を持った。おそらく同じ著者の名著「忘れられた日本人」を読んだためであろう。現在の日本人は非常に均一な人びとだが、かつて江戸時代ぐらいまでは日本にも「いろいろな人」がいたのだ。そして、この本に扱われる山の人びとは歴史に記されるような存在ではない。狩人、杣人、鉄山師、落人・・・かれらは歴史の影にあって、平地の里との関わりはうすかったようだが、それでも彼ら抜きに古い日本社会を語ることはできない。その意味で、著者がその記録を残したことには大きな意味があると思われる。

 

 我々のルーツを辿るとき、きっとこの一冊が必要になるだろう。ところで、著者は附録の中で山の人びとの成り立ちから発展し、縄文時代から弥生時代への移り変わりに論を展開している。いわく、縄文人焼畑農業の知識をもち、この縄文の人々こそが山の人びとの祖でああるのではないかと。少々飛躍した考えかもしれないが、そう考えてみることも面白い。