続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

若い読者のための 第三のチンパンジー 人間という動物の進化と未来 ジャレド・ダイアモンド

 

  「人間はどのような動物とも似ていない。同時に私たち人間は、大型哺乳類の一種というれっきとした動物でもあるのだ」本書はこのような書き出しで始まる。人類とは何者で、どうのようにこの地球に広がり、一体どういう性質を持っているのか?そこから導き出せる人類の未来とは?広大な分野について膨大な知見を有する著者が、高く深い視点で人類を描出する。

 

 とにかく著者の知識と洞察に圧倒される。まるで人類の誕生から近代までを神の視点でみているようだ。もちろんぼくには著者の話がどこまで本当か判断することはできない。でも、十分な説得力はある(だからこそ全てを信じていいわけではないとも思う)。

 

 この本を読みながら、何度もゴーギャンの「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」が頭をよぎった。あまねく人類は、移ろう時代の中で、広大な地球の土地の上でいきる動物の一種に過ぎない。ぼくたちは大きな流れのなかで自分の位置を見極めて生きていくしか、生きる道がないように思われる。その時、今に至る出来事と、我々自身を知ることは必要不可欠なことではあるまいか。

 

 前半では人類の特質が語られる。特異な性行動、言語、文字、芸術、農業、そしてタバコ、薬物、アルコールなどの悪癖。人間は人間を語ることがもとも難しい。客観的な立場に立つことができないからだ。著者は膨大な引用にその基礎を置くことで、可能な限り客観視した「人類」を描き出す。こういった試みは過去に何度もなされてきたと思われるが、著者は明瞭な文章はとてもわかりやすい。

 

 後半は人類の向かうべき未来について、そのおおきな問題である「環境破壊」があげられる。著者によれば人類は幾度も世界の環境を破壊してきた。そして多くの生物種を絶滅に追い込み多様性を損なってきた。多様性の消失は巡り巡って人類の損害として帰ってくるというのが著者の主張だ。

 

 おそらくあえて、この本では人類の向かうべき未来について答えは提示されない。この本は「若い読者のための」本であり、もっとも大切なことは若い読者がこの問題について考える機会をもつことだ。答えはきっと簡単には出ない。きっと人類はこれからも「度し難い」行いを続けていくのだろう。それでも、この本が次の世代に響くことがあるのかもしれない。

 

 「人類」いついての基礎知識を広く浅く知りたい人におすすめの一冊。著者が次の人類に託した一冊、といえないくもないかもしれない。