続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

なぜ日本は没落するのか 森島通夫

平和主義が最も実現しやすい状況は全員が白痴化していることだ(著者)

 経済学者、社会学者であり阪大およびエセックス大学において名誉教授を務めた著者が展開する日本没落論。

 本書は1999年に発行された。世の中はノストラダムの大予言や2000年問題に沸いていた。バブルが弾け日本は停滞の時期に入り始めていた。でも世の中はまだ浮かれていた。バブルの勢いは消えても慣性は残っていたから、日本という国も国民もまだまだ呑気に構えていたのだ。そんな時代に、著者は「目を覚ませ。現実を見ろ」と厳しい論を突きつける。

 今の時代のぼくらからみれば、まさにこの本は予言の書である。著者が危惧した数々の問題は、今なおこの国に根深く残っており、著者が言う没落に向かって転げ落ちている。著者は荒廃が予想される朱文やとして人口・精神・金融・産業・教育の5点を挙げる。90年代にして、すでにその崩壊の芽は出ていたということか。なるほど、これでは国家が成り立たないと感じるだけの説得力がある。人口には少子化、精神には堕落、金融には停滞、産業には空洞化、教育には実質の欠損という問題を我が国は抱えている。だから何も発展せず、そして無意味に平等をありがたがる国民性は、出る杭が打たれる雰囲気を醸成してきた。その間に、世界の国々はのびのびと発展してきたわけだ。

 著者は90年代においてこの状況を既に予見していた。そして、唯一の救済策として「東北アジア共同体」を提唱したのだった。すなわち、EUのように国家が集まり、中国を含む東北アジアの国々が共同体を形成することで行き詰まった状況を打破しようという構想である。

 残念ながら、現実は著者の構想のように向かってはいない。この本が当時の政財界に受け入れられなかったのにはいろいろ理由があるのだろう。個人的には「みんな同じがいいよね」という現代日本の国民性がその根源にあるように思われる。言葉にすれば当たり前なのだが、人間はひとりひとりみんな別人で全く同じ人などいないのだ。だから、色んな人が集まった集団が最大限能力を発揮するために最も効率が良い方法は「適材適所」である。そこを「人間はみんな同じである」という思想に過剰に呑まれたことで、この国は効率を失い、能ある鷹は爪を削がれることになったのだ。もちろん、個人として能力発揮できないものを否定するつもりはない。そういったものを養えるだけ国家が豊かになるのが良い。それは多様性を維持することで、次の時代につなげるために大切なことだ。そのためにも、能力を発揮できるものが能力を活かせるところに辿り着ける仕組みが大切なのだ。

 一方で、本書を通して著者は極端な右翼や左翼を肯定しているわけではない。極端は思想は爆発力があるが持続力がないのだろう。国家は存続してナンボである。そして、繁栄を目指さねばならない。繁栄しない国家はいずれ滅びるからだ。無限の安寧の保証はどこにもない。だからこそ問題を認識に、その解決のために行動しなければならない。未来を担う人々に読んでもらいたい一冊。