続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

グリコ・森永事件 捜査員300人の証言 NHKスペシャル取材班

 

 1984年グリコ・森永事件は幕を上げる。警察を翻弄し、社会の注目を浴びながらもまったく手がかりを残さない犯人。日本初にして最悪の劇場型犯罪はどのように展開していったのか。2011年にNHKで放映されたスペシャル番組を整理した一冊。

 

 この事件は未解決事件である。だから犯人は今も世の中でのうのうと生きているのかもしれない。それ故に取材の雰囲気は重苦しく、とくに警察関係者からは苦渋に満ちた発現が多い。それでもこの本が世に出たことで、われわれは学ぶことができるのだろう。

 

 個人的には「犯罪は時代の中で起きるものである」という感じを受けた。事件が起きた当時はまだインターネットはおろか携帯電話をない。警察官が広域で連携をとるのは一苦労であった。その一方で交通網が発達し、人の動きは速く広くなってきた時代。犯人は情報と移動の速度のズレに生じた隙間を、ある意味見事についてこの大事件を成し遂げたといえるのではないだろうか。逆にいえば、警察側にはこの時代の「盲点」を見抜いて備える力がなかった。いや、見抜いても対応できるだけの組織力がなかったのかもしれない。

 

 あらゆるものが速度を増す現代社会。またきっとあたらしい隙間が社会の中に生まれてくる。そこに如何に犯罪の芽を見出すか。永遠の課題がそこにある。