続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

後世への最大遺物・デンマルク国の話 内村鑑三

 著者の講演を記述したもの。

 僕は著者のことを残念ながらよく知らない。しかし、この本を読めば素晴らしい教徒であり偉大なる思想家であることがよくわかる。著者の思想は古いものかもしれないが、僕にはとても健全な思想のように思われる。現代を生きる我々の思想はどこかで病んでしまったように思われる。どこかで舵を大きく間違えたのではなだろうか。

 「後世への最大遺物」ではタイトル通り、人間が生きる中で続く世代へなにを遺すべきかということが語られる。著者の目線は「人類全体」に向いている。人類全体がより幸福に生きるため何が遺せるのかという視点がそこにはある。現代は個人主義の時代であり、この全体主義的な感覚は薄れてきている。ざっくり言えば「やったもん勝ち」の世の中になってきている。これは個人が個人だけで成立するほど世の中のテクノロジーが進んだことに起因すると思う。生きていくだけなら、先進国に生きる人間は生きていける。それほど便利で余裕のある時代なのだ。でも、一度考え直してもいいのかもしれない。その余裕を自分のために使うのではなく、他人のために使うのも一つの道ではないだろうか。やったもん勝ちでは負けるものが生まれる。敗者に手を差し伸べてこそ、真の強者ではないだろうか。

 「デンマルク国の話」ではデンマークが国を立て直したことが語られる。それは自然と向き合い、自然を研究し、その摂理の中で国家を成り立たせる術を探るものであった。これまた古くさい思想かもしれない。人間は自然の中で生きているのだ。その理から外れることはできない。現代人は少々進歩しすぎたのかもしれない。自然の理に人工の手を加えることが可能な時代になってきた。その先は夢に溢れるように思えるが、一方で人類はそれほど賢くないのかもしれない。

 今、生き方に疑問を抱く人におすすめの一冊。こういう思想もあるのだ。そんな時代を担ってもいいのではないだろうか。