続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

学術出版の来た道 有田有規

 

 もともと研究者には競争好きで世間知らずの点取り虫が多い。ランキングさえ発表すれば、上位に入ろうと自発的に競争を始める。世界経済を熟知する面々からすれば、そんな点取り虫を蠱惑してお金を引き出すのは造作も無いことだろう(科学の世界のランキング化について、著者)

 

 今は科学の時代である。もはやデータとかエビデンスとかいうものを無視できる業界はほとんどないと思われる。「科学的ではない」ということが「正しくない」と捉えられる向きもあるように思う。そんな「科学」を世の中へ公表される場が「科学雑誌」である。しかし科学出版という業界は非常に特殊な世界である。しかも業界に携わるもの以外の人からはその正体に触れることはほとんどできない。本書には、そんな科学出版業界の成り立ちから、現在に至る現状までが非常に簡潔にまとめられている。

 

 個人的に驚かされたのは、論文を発表する科学者たちが、掲載する雑誌にその著作権を譲渡させられ、さらには掲載料(高額なものでは100万円を超える)を支払うという仕組みだ。わりととんでもないことのような気がするが、それでも有名雑誌に自身の論文を掲載するためなら科学者はその条件を呑むしかないし、呑んでしまうようだ。

 

 さらに科学雑誌は大学などの研究機関に定期購読されるので、それだけでとんでもないお金が動く。インターネットの普及もあって、論文へのアクセス契約をとりつけるだけですごいお金になるようだ。まさに濡れ手で粟の商売となり、現在は雨後の筍のように科学雑誌が増えたとのこと。結果、科学雑誌といってもピンキリとなり、科学の正確性や正しさよりも内容のインパクトを重視するような雑誌もあるらしい。

 

 そうすると、今世の中に氾濫する「科学」というものは、どうもそんなに立派なものではないような気がしてきた。まさに玉石混交。そういえば中国には論文工場があるとかいう実しやかな噂も聞いたりする。つまり、今の科学の世界には商業主義、資本主義、成果主義といったものが溢れかえっており、それをうまく利用して儲けているのが科学雑誌ということだろうか。

 

 いずれ科学の次の時代がくるのだろうか?すでに科学の凋落ははじまっているのかもしれないいと思う一冊だった。