続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

影との戦いーゲド戦記 アーシュラ・K・グウィン

 

影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫)

影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫)

 

 

生まれついての魔法使いゲドは、その力に導かれるように成長していく。しかし、魔法学院での慢心から、かれは不用意な魔法により影を呼び出してしまう。ゲドと影の宿命を巡る旅が始まる。

 

これはいい物語である。現実を遠く離れ、しかし妙に現実感のある世界観。自然でありながらも教訓を含む物語。是非子どもたちに読んでほしい。そして大人も読むべきだ。この物語には「事を成す」ための教訓が詰まっている。そして、それはまさに生きていくために必要な教訓ではないだろうか。

 

どうも、ぼくは映画のゲド戦記が苦手でちゃんとみることができない。最初のゲドとハイタカが旅をしているシーンには惹かれるのだが、その後が続かない。テルーが出てきてしばらくすると気がつけば寝てしまう。 

 

そしてこの原作1巻を読んで気づいた。なるほど全く別物なのだ。原作で語られるアースシーの世界は小さな島国(町)で構成されており、その島ごとの独特の文化がある。そのなかを渡り歩きながら、人と出会い、挑戦と妥協の中で、ゲドは少しづつ成長していく。その雰囲気を残しているのが映画の旅のシーンで、だからこそおもしろいのだ。一方で、その先にあるものは原作の力を借りない、宮崎吾朗監督なりのストーリーであり、キャラクターなのだろう。だから、今ひとつ力が足りないのだ。

 

現実の世界であれ、魔法の世界であれ、人はそこに意思を持って生きていかねばならない。この本のなかでは、魔法の世界の大きな運命の風のなかで、翻弄されつつも己の道を歩まんとするゲドの姿が描かれる。挫折と成長。すべてひっくるめて彼の人生であり、それを受け入れる心こそが心の力なのだろう。

 

万人におすすめしたいいい本である。