続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

病牀六尺 正岡子規

 

病牀六尺 (岩波文庫)

病牀六尺 (岩波文庫)

 

 病牀六尺、これが我が世界である。

 

 正岡子規は若くして死んだ。当時不治の病であった結核に侵され、脊椎カリエスに苦しんだ。それでも筆を取り続けた子規が、死の2日前まで新聞に連載し続けた随筆集。

 

 相変わらず歴史に疎いぼくは著者のことも名前ぐらいしか知らなかったが、この一冊でその偉大さを感じた。表題どおり病床から身動き取れぬ身でありながら、俳句や短歌の研究に取り組み続け日本文学を刺激し続け、一方で草花の写生、食物、教育、銀杏並木の話まで、あらゆることに興味を持ち、論じる姿勢はすさまじい。激しい炎を秘めた心が弱い身体に閉じ込められたことで、激しく燃え上がっていたのかもしれない。

 

 もちろん新聞に発表されるものなので、本当に苦しいところを赤裸々に描いているわけではない。それでも言葉の端々に病の苦しさは垣間見える。そして、苦しさを打ち払うように自身の論を展開し、その思想を明瞭に打ち出していく。写生主義を軸とした著者の芸術論は俳句や短歌のみならずあらゆる芸術に向けて発せられる。写生主義をもって日本の芸術を押し上げようとした著者の絞り出すような努力が感じられる。

 

 人生の道は無限にあるが、こういう人生はまさに「生きる」ことを繰り返しているよう思われる。その力強さに、現代を生きるぼくたちも勇気づけられる。