続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

夫のちんぽが入らない こだま

 

  大学入学とともに上京してきた私。アパートで暮らす先輩との交際がはじまり、その日を迎える。しかし、彼のちんぽがはいらない。結婚し、彼が夫となったあともその問題は解決していない。ちんぽが入らない問題は徐々に夫婦の間に歪な影を落としていく。

 

 私小説ということで、大変なまなましく、それでいて実にコミカルな作品に仕上がっていく。扱っているものがセンシティブなだけに表現には敏感にならざるを得ないと思うが、この作品はうまくその問題を回避しているように思う。

 

 世の中には公にし辛い話がある。こういった「性の問題」もその1つ。それゆえ、人知れず問題を抱えて苦しんでいる人がいるのだろう。著者も「入らない問題」にとても苦しんでいたようだ。どうしても情報を得ることができず、そのことがさらに苦しみを生む結果となっていた。この本はそういった人々に大きな勇気を与えるものではないだろうか。残念ながら問題の解決策が提示されるわけではないのだが、同じ問題を抱える人がどこかに居るということ、当事者にとってとてもおおきな事実なのだ。

 

 一方で、ちんぽに関連のあるもの・ないもの、様々な問題が著者に降りかかる。夫の風俗通い、その反動で出会い系掲示板にのめり込む著者、小学校で働く著者のクラスの学級崩壊、それらに起因するうつ病・・・。なによりも、こういった問題を相談することが難しい状況が、日本社会のなかにまだまだあることが、とても悲しい。

 

 この本に描かれているのは個人の問題なのかもしれない。しかし、それは氷山の一角であり、その背景には日本社会の暗闇が渦巻いている。ぼくには、そんな気がするのだ。