続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

おんぶにだっこ さくらももこ

 

おんぶにだっこ

おんぶにだっこ

 

  さくらももこのエッセイ集。なんと赤ちゃんのころから始まり、小学校低学年のころの思い出を振り返る。

 

 著者の記憶力には驚かされる。なんと最初のエッセイは2歳のころの話。タイトルは「おっぱいをやめた日」である。当然、当時の著者の語彙力は当然赤ちゃんレベルであると思うが、これを執筆した頃の著者は当時の場面や気持ちを実に見事に言語化している。サラッと書かれているように思えるが、これって実はめちゃくちゃ難しいのではないだろうか。自分が赤ちゃんだった頃のエピソードを言葉で表現することはとても僕にはできそうにない。

 

 また、本書はさくらももこのエッセイの中でも異質な感じがする。コメディや感動もののエピソードはあまりなく、むしろ暗い、忘れてしまいたいような記憶が蘇る。そのことは著者も自覚しているようで、あとがきにて「この作品を読者に届ける意味がみつからない」というようなことを述べている。えらいもので担当者は「それでもこの作品には言葉にできない何かがある」と著者を説得したそうだ。

 

 担当者の言葉通りこの作品はとても不思議な気持ちを呼び起こす。失敗談が多いので、ふしぎな気持ちの中には反省や後悔が含まれるように思う。ただ、それだけでは説明できないのも確かだ。あとがきで著者は読者へ届けたい1要素として「人間の根源的な部分への帰還」を挙げている。ぼくにはまだ理解できないが、この要素がこの不思議な気持ちを生み出すのだろうか。

 

 さらりと読める作品のなかにとても不思議な力がある。過去のさくらももこのエッセイが好きなら読んで損はない一冊。