続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

黒塚 夢枕獏

 

黒塚 KUROZUKA (集英社文庫)

黒塚 KUROZUKA (集英社文庫)

 

  平安時代。九郎坊と大和坊は追手に追われて山奥の民家へ逃げ込む。そこには黒蜜という女が一人で暮らしていた。3人の暮らしは幸せだった。しかし、突然の嵐が幸せな暮らしを襲う九郎坊の生首。数奇な運命。永遠の命を生きる異形。物語は始まった。

 

 夢枕獏は言葉で平安の闇を描く達人である。陰陽師シリーズでその力は立証されている。一方で、著者は現代の人の心に巣食う闇も描いてきた。詰まるところ、夢枕獏は人の心の闇というものに普遍的に精通している。

 

 さて、本作はそんな著者の力が最大限生かされた一作である。この作品は平安の世から現代を通して未来にまで至る長大なSF作品となっている。時代と文化を通して、それらを貫く人間の「どうしようもない心」が描かれる。著者の人間観察・考察の力恐るべしというところだろう。

 

 

 読みながら最初に感じたのは「あれ?これ安達が原じゃない?」ということであった。ぼくは昔、手塚治虫の漫画を読んでいたのだ。能の作品の骨子を近未来SFのにアレンジした手塚治虫屈指の名短編である。そして調べてみれば安達が原とは作中の地名であり、能の作品のタイトルこそ「黒塚」ではないか。さらにはあとがきに手塚治虫の安達ケ原について言及がある。ぼくの感覚は当然のものだったのだが、作中の10分の1も読まず、それを感じ取ることができた著者のセンスは目をみはるものがある。

 

 誰かアニメとか映画にしないかな。アクション・駆け引きに富む作品なので、映像化したらとても生きるのではないだろうか。個人的には今こそこ作品なのではないかと思う。世界が大きなストレスを感じる中、日本の文化が答えを示せるとしたらこの作品なのではないのだろうか。

 

 今作で著者は複雑に伏線を張り巡らせ、そして非常な爽快感をもって回収する。陰陽師シリーズではやらなかった著者の(あえて隠していた)能力が存分に発揮されている。ようはミステリである。夢枕獏のミステリの才能が存分に発揮されている。だからこそ、ネバレなしで読んでもらいたい作品。

 

 以下、ちょっとネタバレ(ぼくの疑問。だれか教えて欲しい)。

  黒蜜はいわゆる吸血鬼であった。九郎坊はその眷属として、永劫の闇を歩むことになる。人の世が終わる果ての時まで、二人は誓いを交わすのであった。

 

 この設定は面白い。たぶん数多のクリエイターを刺激してきた。最近だと化物語シリーズの忍野忍阿良々木暦がこの関係だと思う。たぶん、永遠の命をもつ人外と、そして様々な事情が有りながらも人外とともに永劫の未来を歩む人間という設定は、古くから存在するものなのだ。このアイデアはすごい。痺れる。では、その最初の発案者はだれなのだろうか?ぼくはそれ知りたい。どうか、ご存じの方がいればご助言いただけるとありがたい。