続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領  アンドレス・ダンサ (著), エルネスト・トゥルボヴィッツ (著), 大橋 美帆 (翻訳)

 「人類は一つの種として行動しなけりゃならん。自然は強大だ。恐竜を絶滅させたのに、人間は大丈夫だってどうして言える?」(ムヒカ)

 元ウルグアイ大統領「ホセ・ムヒカ」を長期取材したもの。彼の経歴や思想をわかりやすく知ることができる。ただ、彼を絶賛する1冊なので偏っては居るのだろう。

 ムヒカ元大統領の物事への取り組み方は素晴らしい。彼は歴史に学び、思想を知り尽くし、多様な人間の考え方をよく理解した上で、己の思想を選択し、ウルグアイの人々のため、南米の国々のため、世界の国々のために行動を選択しようとしている。また、資本主義の弱点について実にクリアに理解している。いわく、資本主義は個人主義に走りすぎ、人々は無意味な富を追い求めすぎるとのこと。個人的にはなるほどと思わされた。幸せの定義は人それぞれだが、資本主義とは「富こそ幸せ」と人々に思い込ませる思想なのだ。その一方で、資本主義は構造的に貧富の差を生み出す。富めるものはさらに富み、貧者はより貧しくなる。それが資本主義の構造だ。人が幸せになるために生まれてきたのだとしたら、こんなに辛い思想はない。幸せは一部の大富豪のためのものになってしまう。

 思想。これこそ今の日本に足りないものではないだろうか。この国では思想は危ないものだと思われている。戦後の学生運動などの影響なのだろう。でも、思想や、その大元である哲学なしには人の思考はおぼつかない。そういったものを日本人は学ぶ機会が少ない。思想を知らないから、容易く偏った思想に染め上げられてしまう。知らないから、行動が無軌道になってしまう。

 我々一般市民はそれでもいい。しかし、いわゆる「エライ人」には思想が必要だ。エライ人はとてつもなく多くのエラくない人に影響を与えるのだから。すなわち、無軌道なエライ人の元では国全体が無軌道になってしまうのだ。弱りきったこの国に、力強く健全な思想を持つ大人が現れてほしい。読みながらそんな夢をみる一冊であった。