おにのそうし 夢枕獏
平安の時代。闇深い世の中で人は鬼と行き合った。そんな人と鬼のやり取りを描く短編集。
夢枕獏が描く平安時代は妙なリアリティがあって良い。生ぬるい空気や、闇に溶けていく小径を感じることができる。
いまでこそ鬼は悪者のイメージだが、もともとは人を超越した力をさす言葉だったのだろう。鬼才という言葉もある。この本に出てくる鬼たちは詩や音楽などの芸事に優れるものたちである。また、鬼は自然を司る神が形をなしたものでもあるらしい。百鬼夜行とは大自然そのものではあるまいか。
ちょっと苦手だったのは濡れ場の描写が多いこと。これもある意味平安の世のリアリティを描く上で重要なのかもしれないが、陰陽師シリーズの感覚で読んでいるとちょっと面食らってしまう。
とはいえ、現代とは異なる平安の感覚を肌で感じることができる一冊。絵巻の世界に行ってみたい人におすすめしたい。