鳥葬の山 夢枕獏
「宇宙は何でできているのかな?」(さる物理学者)
「かんたんさ。羊と、羊ではないもの、だよ」(少年)
夢枕獏の短編集。比較的若い頃の作品なので、陰陽師や空海シリーズとはちょっと雰囲気が違っていい。現代を舞台にしている作品も多い。
とはいえ怖さと優しさが入り交じる独特なテイストはすでに確立されている。ファンなら十二分に楽しめるし、むしろはじめて夢枕獏にふれる人はこの本からでもいいかもしれない。短編なので読みやすいし。
個人的には「羊の宇宙」が気に入った。あの20世紀最高の物理学者が実は生きておりチベットの山奥で羊飼いの少年と語らう話だ。少年はとても聡い。しかも、現代人とは全く違う視点で生きている。彼らの語らいのなかに、世界の深淵が顔を覗かせるような気がする。そこには言葉や論理を超えた宇宙の形がある。それは著者が若くして見つけた宇宙の形なのか。