続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

スターリンの葬式協奏曲

 

スターリンの葬送狂騒曲(字幕版)

スターリンの葬送狂騒曲(字幕版)

  • 発売日: 2019/01/19
  • メディア: Prime Video
 

  ソ連を率いる独裁者・スターリン。いかなる独裁者もいつかは死ぬ。スターリン脳卒中で死んでしまう。取り巻きたちは大慌て。大騒動が幕を開ける。

 この映画、邦題に似合わず本格的である。共産主義という強固なピラミッドのてっぺんが崩れた時、てっぺんを狙う権力争いが幕をあげる。

 スターリンの懐刀・ベリヤはあの手この手で周囲を懐柔していく。スターリンの補佐官であったマレンコフはその後継者となるも、どうにも力が足りない。ニキータ・フルシチョフはここぞとばかりに暗躍を開始する。結果は歴史が示すとおりだ。ちなみにこの映画の原題は「The Death of Stalin」というなかなか重いもの。邦題に騙されず一度見てほしい。

 この時代の共産主義はもちろん理想的な共産主義ではない。当時の共産主義が作ったものは、少数の人間が社会を主導する強固なピラミッド社会だった。ピラミッドの頂点にはスターリンがいた。ピラミッドを強固にしていたのは秘密警察だ。そして今、その頂点にいたスターリンが死んだ。周囲を取り巻くおエライサンたちはその座を狙ったのだ。

 結果としてというか、下手に歴史を描くより、当時のソ連の雰囲気をよく伝える映画になってるのではないかと思う。同時にその「雰囲気」は昨今の日本の社会によく似ているように思われる。権力が暴走し、だれもが権力の意向を伺っている。それしか術がないのだ。もちろん建前はあるが実情としての権力は暴走している。

 この映画の時代。強大な権力は良い結果を産まなかった。結局のところ、個人や少数の人間が権力を握ることは社会全体を抑制することになったからだ。同時に多くの命が失われた。全くもって共産主義や独裁者を褒めることはできない。だから、その雰囲気を感じ取る力をわれわれのような民草が持つべきなのだろう。目先の欲に飛びつけば、自分たちが生きる国家を失うことになるのかもしれない。

 「腐敗した国家」の雰囲気を肌で感じることができる映画。国家や政治に興味がある人は見ても損はないだろう。