続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

侍はこわい 司馬遼太郎

 

侍はこわい 時代小説 短編集 (光文社文庫)

侍はこわい 時代小説 短編集 (光文社文庫)

 

  司馬遼太郎の短編集。昭和35〜40年頃の初期の作品集である。表題作を中心に、江戸時代の侍の姿を中心にして人々の暮らしが描かれる。

 

 登場人物のモノローグがおもしろい。現代とは全く違う江戸の時代の文化。その中では人の思考は現代人とは全然違う。そしてそこにリアリティを感じるのは、まさに司馬遼太郎の知識の深さと描写の鋭敏さからくるものなのだろう。

 

 個人的には表題作「侍はこわい」が良かった。江戸時代には身分の違いがある。身分が違えばその社会、文化、思想、何もかもが違う。人間は別々で、そして違いのある人間が共に暮らしていた。お互いに理解し合うことのできない存在が、時には夫婦として暮らすこともあるのだ。そういうせめぎ合いがあって、世の中には表も裏もある。人間社会の複雑さと、その中で生きる人々の強さを感じることができた。