続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

騙し絵の牙

 

 

映画『騙し絵の牙』オリジナル・サウンドトラック

映画『騙し絵の牙』オリジナル・サウンドトラック

  • 発売日: 2021/03/26
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

 薫風舎は歴史ある大手出版社。雑誌「小説薫風」を軸として日本の文芸会を盛り上げてきた。しかし時代には出版業界に厳しい。薫風舎も経営が苦しいことには変わりない。そして、社長の死をきっかけに、薫風舎は伝統派と改革派で真っ二つ。高野は伝統派の一角「小説薫風」に携わる若手編集者。しかしいろいろあって改革派が率いる雑誌「Trinity」の編集に移動することに。上層部が対立を深めていく中、Trinityの曲者編集長・速水の大仕掛けに高野は巻き込まれていく。

 

 映画を見終わった感想は「多分これ原作とストーリー違うんだろうな」だった。予告編を見る限り、本作はラストのどんでん返しが売りのミステリなのだが、正直、ちょっとこの映画のラストは弱い。一番大きいトリックも正直見え透いている。映画という枠に収めるには小説のボリュームは得てして大きすぎるので仕方がないことではあるが、だからこそ原作を分解・再構築する脚本の力は重要だ。邦画はその制作体制上脚本が弱い。この映画も脚本の弱さが出てしまったように思う。

 

 でも邦画は人間関係の妙を描くのがうまい。というか日本人は腹のさぐりあいが好きなのだろう。必要以上に包み隠し相手の出方を探る民族なので、見る方も作る方もその辺はやたらと習熟している。とはいえ、本作で策謀を張り巡らせているのは速水だけなので腹のさぐりあいも深みがない。良い主人公には良い悪役が必要だ。切磋琢磨するというか、腹を探り合うというか、相手がいて初めて戦いは成立するのである。デスノートのライトとLとか、JOJOのディオと承太郎とか。ヘヴィ級チャンピオンに対する挑戦者は素人ではいけないのだ。

 

 個人的には主人公・高野が邪魔である。彼女は文学を愛するがゆえに純真かつときに暴走する。純真なのは観客の目線なのだろう。観客は高野の目線で物語を追い、速水の仕掛けに騙される。暴走するのは狂言回しとしての役割だろう。そしてこの狂言回しがうざい。キャラクターいあわないのだ。文学に精通し、言葉を、表現を考え抜く編集者である彼女があまりにも軽率な行動を取る。「若いから」で説明するにはあまりにてきとーである。マンガならいいが、実写映画でこの馬鹿っぽさはまずい。萎える。単純に速水とライバルと一騎打ちで良かったのではと思ってしまう。高野はコメディ色を出す存在なのだと思うが、中途半端だ。むしろ要らない。

 

 総じて、期待はずれの映画だった。ただこの映画だけが悪いものではない。「予告編が一番面白い映画」というものはある。いっぱいある。この映画もその1つである。映画と原作で迷う人は、たぶん原作を読んだほうが楽しめるだろう。