続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

鮎師 夢枕獏

 

鮎師 (講談社文庫)

鮎師 (講談社文庫)

 

  鮎釣り解禁の季節が来た。鮎釣りをこよなく愛する菊村は隙きあらば早川に向かっている。ある日、菊村は危ない雰囲気の男・黒淵と出会う。黒淵は、早川に潜む常軌を逸した大鮎を狙い続けて毎年釣りに通うのだという。ある日、菊村は岩についた大きな苔はみ跡を見つける。菊村も、また大鮎に惹かれていく。

 

 ただの釣り好きの話なのだが、夢枕獏が書くとこうも不思議な空気が生まれる。にじみ出るような人の心、ある意味狂気のような理解しがたい感情。人生を破滅させてでも鮎に対峙しようとする釣り人たち。ホラーともロマンともとれる物語だ。

 

 登場人物を恐ろしいと思う一方で、羨ましいなと思う自分もいる。なにか1つの物事に自分のすべてを捧げられたらどんなにいいだろう。現実世界ではそんなアンバランスな生き方は、たぶん、できない。モラトリアムにある中高生ならまだしも、社会のなかにある大人たちにはそんな真似はできない。そういう意味では、この作品はファンタジーなのかもしれない。読み手によって感想がさまざまに分かれるだろう。自分の心を映す鏡のような作品だと感じた。