美味礼賛(上) ブリア=サヴァラン
今から200年ほど前にフランス貴族が書いた本。食通で博識、思慮深淵な著者が食についてあらゆる観点から語る。
食べ物や食べることについて非常に論理的に語る。貴族という特権階級だからこその語りだとは思うが、なんだか妙に説得力があって納得してしまう。それは著者がサイエンティストに徹し 、エヴィデンスに基づく論述を心がけているからであろう。当時の日本は江戸時代の終わり頃だろうか。当時の日本に同じことができる人がいただろうか。欧州のサイエンスの育ちの速さに驚かされるし、なるほど日本は後を追うだけだと気付かされる。
さながら200年前の海原雄山というところか。いや、海原雄山は実在しないのだけれど。食を通してその思想は哲学ともいう領域に届いている。そこには、文明を感じる論理が有る。人は野獣のごとく食らうだけではない。食に人生の潤いとも言える快楽を求め、会食に奇跡のような他人との交流を得るのだ。
もちろん200年近く前の本なので、現代の我々から見れば科学的におかしいこともある。文化の違いから違和感をおぼえることもある。それでも、当時の優れた思考と思想を感じ取ることができる。人間の考える力を感じとることができる素晴らしい教材なのではないだろうか。