続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議 河合香織

 

 COVID-19が人間社会を脅かして久しい。日本では「専門家会議」が立ち上がり、政府と意見を交わしながら取るべき対応を模索していった。2020年2月から、同年7月までのその奮闘を主に専門家会議の側から整理したのがこの一冊。

 

 全体的に淡々と事実をまとめ上げてくれた本なので読みやすい。ダイヤモンド・プリンセス号事件の前後から始まり専門家会議が解散し、政府の分科会へと移行するまでを語る。日本政府と専門家会議との距離感というのは、実に複雑で難しい。この本の焦点はこの距離感と、主に矢面に立つことになる副座長・尾身茂さんの身の振り方にあるともいえる。

 

 専門家会議が知恵を振り絞って対策を練ったとしても、それを実行するのは政府である。また、感染症対策の面以外にも多様な要素を加味すれば、専門家会議の意見がそのまま通ることは基本的にない。国内外の動向を見据え、如何に政府との間に落とし所をつくるのか。さらに。この国ではでる杭は打たれてしまう。あるいは出過ぎた振る舞いのために政府が専門家会議の意見を無視するようになるかもしれない。そんな状況で、感染症のプロとしてどう振る舞うべきか。専門家会議はウイルスだけを相手にしていたのではないということがよく分かる。

 

 政治というものは難しい。そして国家というシステムもまた複雑だ。国も政府も完全なものではない。だが、多くの欠陥を抱えながらも動かしていくしか無いのだろう。COVID-19への対応を通して、この国のかたちが垣間見える一冊だった。