続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

天国ゆきカレンダー 西本 秋

 

  七果は高校でいじめられていた。クラスメートたちは夏休みの課題と称して残酷な日課を書いたカレンダーを七果にわたす。そこには8/31に自ら命を絶つ支指示が。ふっきれた七果は贔屓のバンドの全国ライブを自転車で追いかけながら、カレンダーの課題をこなすことを決める。ひょんなことから出会った男子高校生・畑野とともに旅が始まる。

 

 いわゆるジュブナイル小説ってやつである。若さゆえの行動力、若さゆえの無知、若さゆえの無理解、若さゆえの過ち。若者には若者の世界がある。それは大人たちから見れば、無意味で、無軌道で、ときには滑稽ともいえる世界だが、そこには彼らなりのルールがあって、彼らはその中で育っていく。大人たちもかつてはそこにいたのに、大人になると忘れてしまう。

 

 ジュブナイル小説の基本は少年・少女の成長の物語である。本作では主人公・七果と相棒とも言える畑野がそれぞれ成長していく。七果は一人の人間として屹立することを学ぶ。いじめっ子たちに復讐することを考え、バンドの動向に一喜一憂していた彼女は、自分の足でたつことができていない。なにかも、周りに振り回されていて自分の意志というものがない。そして独りよがりな思考に包まれて、彼女には現実がみえていない。旅の中での出逢いや体験が彼女を包むヴェールを消し去っていく。現実は痛く苦しいものだけど、それを受け入れて生きていく価値がある。旅を終えた彼女は自分の足で立ち上がり、自らの意思で行動を始める。一人の人間として屹立すること。それが少年少女が大人になるということなのだろう。

 

 一方、畑野は旅立つ時点で自らの意思と行動力のある人間だった。しかし、彼もまたヴェールに包まれ、自らの世界に閉じこもっていた。彼の最大の成長は人を信じることができるようになったことだろう。信用できる人間が一人でも居るということは、とても大きな力になる。それは、社会につながることだから。群れを外れて生きていけるほど個人は強くないのだ。そもそも人間は群れの中で生きる生物なのだから。

 

 なにかに迷ったり苦しんでいる人に読んでほしい一冊。