続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

精神科ER 緊急救命室 備瀬哲弘

 

  現役精神科医が語る精神科「救急」のドキュメント。

 

 精神というものはなんなのか。僕にはもう一つクリアでは無い。しかし、この本に記されるように、確かに精神を病む人というのは存在する。誰かに狙われていると感じすべてを疑う人。公正な論理に異常なまでのこだわりを見せる人。首をつる人。周囲からの接触に一切反応しなくなる人、などなど。原因はさまざまだが、過剰な負荷がかかったとき、人間の精神は「壊れて」しまうのだ。

 

 そして「精神科に救急なんて必要あるのか?」と思っていたことを反省したい。なるほど、精神の破綻というのは時として緊急事態なのである。そして壊れた精神も、身体の病気と同じように、適切な治療を受けることで治すことができるのだ。

 

 この本は精神科医の本当の必要性と精神科医療の価値を提示している。日本だと、医療のなかでは精神科は随分と軽んじていられるのではないだろうか。だれが言ったか「精神科医は医者も頭がおかしい」などと笑い話にされたりする。しかし、彼らなくしては社会の中で苦しむ人がおおぜいいることを認識しなくてはならない。特に、日本社会は精神に問題を抱えた人に対して厳しいのだから。

 

 他方、この本に出てくる患者さんたちの背景には、日本社会(または都会)が抱える問題があるように思う。ネグレクト、過労、アル中、引きこもり(を許さない社会)、過密な人口etc。患者さんたちはそういった根深い問題が、一つの形として表層化した存在なのかもしれない。

 

 誰が読んでもいいし、広くいろんな人に読んでもらいたい一冊。