続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

うつノート 精神科ERに行かないために 備瀬哲弘

 

 現役精神科医である著者が具体的な患者例をあげて、うつ病をとりまく実情を綴る一冊。うつ病患者が5例。そして「D'」と表現されるうつ病と正常の境界の症例が5例。

 

 全体を通して興味深かったのは、うつ病と診断される患者さんほど自覚はなく、D'のあの患者さんのほうが自分をうつ病かもしれないと考えていることが多いということだ。うつ病という病気が恐ろしさは「自分がおかしい」ということを自覚できないほど、認知能力や判断能力が鈍ることにあるのではないだろうか。他の病気と同じく、うつ病に関しても早期発見・早期治療がやっぱり有効であるようだし、無理を重ねれば重ねるほどうつ病が進行する可能性もある。本人が追い込まれてしまう前に周囲の人間が手を貸すことがうつ病という病気への対応として非常に重要だと思われる。

 

 

 一方、D’の患者さんは自分の状態が悪いことを自覚できている。それだけ判断能力が残っているということなのかもしれない。だが、著者はD'の患者さんを「病気ではない」と診断したうえで「境界」からより正常なところへ進めるべく治療を行う。当たり前のようだが、人間の精神というものはそんな画一的に線引して扱えるものではないのだ。かつては社会の中にそういう「弱った人」を助ける余裕があったと思う。でも現代は、どんどんと効率化が進んでいて、社会の中から余裕が少なくなっているように思う。D'の患者さんは最近増えてきているらしい。その背景にあるものを考えて、サポートすることが今必要なのかもしれない。