零戦 その誕生と栄光の記録 堀越二郎
アイデアというものは、その時代の専門知識や傾向を越えた、新しい着想でなくてはならない。(著者)
零戦。第二次世界大戦において日本海軍に配備されたその戦闘機は、並みいる列強国の戦闘機を相手に圧倒的な実力を見せつけた。そんな零戦の設計者・堀越二郎、自身が語る零戦誕生秘話。
ジブリ・宮崎駿監督の「風立ちぬ」で一躍有名になった人物の一人、堀越二郎。本書には彼のモノづくりへの姿勢が見事に表されている。彼こそは職人であり、設計者であり、技術者である。詰まるところ、自身の理想と、客のオーダーの間でもがき苦しみながらも理想の製品を目指すものである。「なんでもかんでも思うように作っていい」なんてことはよっぽどの巨匠でも無い限り、世の中には無い。それでも作り手は作るしか無いのである。自分の理想を掲げて。
そんな戦時下の飛行機制作の現場が、ありありとこの著作に描かれている。冷静さを保ちながら、ときに上層部の理不尽に苦しみ、ときに同僚たちと白熱した(そしておもしろい)議論を交わし、より良い作品を目指す姿勢がそこにある。
たぶん、その状況は宮崎駿監督が置かれているアニメーション制作の現場と同じなのだろう。数えられないほど多くの人間が、監督が率いる一つの夢のために努力している。その夢が成功するかどうかもわからない。でも、監督を信じるスタッフが居るのだ。堀越二郎は(必要に駆られてではあるが)夢のような戦闘機を設計し、スタッフがその夢を追った。練磨に次ぐ練磨をもって、夢は叶えられた。アニメーションという途方も無い努力が求められる世界とも通じるところがある。宮崎駿監督が作品のテーマに選んだことにもうなずける。
人間はモノを作ってナンボの生き物ともいえる。すなわち、価値の創造こそ人間を人間たらしめるのではないだろうか。ならばこそ、すべての人間に読んでほしい。せめて日本人に読んでほしい。そんな一冊でありました。