吉原手引草 松井今朝子
吉原一の花魁・葛城が忽然と消えた。事件に興味をもった男は聞き込みを始める。嘘と真の舞台のかげに一体何が潜んでいたのであろうか。
とてもよくできた構成の小説。主人公の男が吉原の人々にインタビューする形式で話は進むが、主人公はまったくしゃべらず(主人公の台詞は書かれず)相手のしゃべりだけで描かれるので、まるで自分が吉原の廓のなかで聞き込みをしているように感じられる。RPGをやっているようだ。
インタビューを通して葛城花魁の姿を描くのも面白い。舞台が吉原ということもあり人々の話はどこまで信用していいのかわからない。読み手それぞれに取捨選択する情報が違うから、浮かび上がる葛城像も様々なのだ。それでいてしっかりと人物として確立される感じがある。これは映像を必要とする映画にはできない物語の語り方だ。小説の特色と強みを活かし、完成度の高い構成を作った時点でこの本が面白いのは間違いなかった。
江戸の風を感じてみたい人におすすめの一冊。