いわずとしれたスタジオジブリの巨匠・宮崎駿監督の文章やインタビュー記事をまとめたもの。アニメ(いや、監督の表現としては漫画映画か)業界に入り、TVシリーズを高畑勲監督のもとで情熱的に手掛け、ナウシカ、ラピュタ、魔女宅と続き、もののけ姫を製作中のころの文章が収録されている。
アニメーションへのこだわり、映画製作の手法、監督の思想や理想など、さまざまなことを断片的に知ることができる。
宮崎駿監督は自身の思想を仕事につなげることのできる人間だ。これは現代日本では実に難しいことではないだろうか。今の日本社会はあまりに求められることが多く、そして個人の裁量を認める余地が実に少ない。もちろん宮崎監督も、この国の映画館監督の多くと同様に内外から様々な圧力を受けながら映画を作っているのだろう。しかし、この人は一筋縄ではくずれない。
おもしろい作品生み出す映画監督のご多分に漏れず、宮崎監督も実に想像力が豊かであるらしい。克明な想像力で作品世界を緻密に描き、その中にこれまた明確な人間性をもつキャラクターは自然と動き出す。その背景には監督自身の持つ歴史と文化の膨大で緻密な知識と思考がある。この想像力は映像敵想像力であるらしい。宮崎監督はその思考の多くをビジュアルとして想像し、幻視するかのごとく思考している。
最後に、故・高畑勲監督からの寄稿文「エロスの火花」が掲載されている。その中にさりげなく宮崎監督への感謝が示されていて、実にグッとくる人間関係が垣間見える。
仕事の「いろは」を宮崎監督は地で行っている。つまり、これほど仕事の根源に根ざした仕事をしている人は日本にそういないだろう。現代の思想家。それが宮崎監督ではないだろうか。