「俺は生き残っただけだ」(帰還した兵士)
「それで十分だよ」(毛布を渡すおじいさん)
時は第二次世界大戦。ドイツ軍はフランスへ侵攻。イギリス・フランス連合軍はドーバー海峡に面するフランスの小都市「ダンケルク」へ追い込まれていた。時の英国首相チャーチルは兵士40万人を救うべく、民間の船舶まで総動員する「ダイナモ作戦」を発動した。果たして連合軍兵士の運命や如何に。
この映画は戦争を舞台にした群像劇である。そして主人公が存在しない。数人の主要登場人物は出てくるが、彼らの名前を覚えるような機会はおそらくないだろう。登場人物たちは皆、立場や舞台は違えども名もなき一兵に過ぎない。
戦争をこんな風にとらえた映画は個人的には初めてでとても新鮮で強烈だった。戦争の中の英雄や困難に立ち向かう人々をスポットを当てることはせず、ただ淡々と普通の兵士を描く。それでも戦争という環境が十分にドラマを生み出す。それぐらい、戦争というのは今の時代に生きる人間からすれば非日常なのだ。そしてそのすべてが悲劇である。ノーラン監督のこの視点は斬新だと感じた。
全体を通してすさまじい緊張感が続く。BGMの随所に入るチクタク音が映像や脚本を盛り上げる。
もう一つ、この映画では敵であるドイツ兵がほぼ姿をみせない。これが緊張感や恐怖感をさらにあおる。敵の動きが全く見えない。敵の考えが全くわからない。戦局の不利な状況でこの状態は怖い。未知への恐怖がここにある。