続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

クルエラ

 

  ディズニーが送り出すヴィラン映画。舞台は1970年代のロンドン。101匹ワンちゃんのヴィラン・クルエラの誕生秘話を描く。主人公・エステラは生まれつき髪の毛が白黒半々であった。そんな彼女は類稀なるファッションセンスと、世間一般に収まらない強い自我を持っていた。そう、彼女は生まれついてのアーティストだったのだ。しかし、時代は彼女を認めない。その反発がもうひとりの彼女・クルエラを生み出した。数奇な運命が、今、始まる。

 

 申し訳ないが、ぼくは101匹ワンちゃんは金曜ロードショーで過去に一度観ただけだ。正直、何も覚えていない。でも、この映画は良かった。100点満点なら75点。観て損はない映画である。

 

 脚本がいい。ハリウッドの脚本は激しすぎるほど激しい競争のうえに成り立つものなので、研ぎ澄まされるのは必然だ。しかし、それでも良し悪しはやはりある。この映画の場合は、奇跡的に完成しているといっていい。無駄がなく、すべてのメッセージが明瞭である。かつてサム・ライミ監督がヒーロー・スパイダーマンを一人の人間として描いたように、ヴィラン・クルエラもまた一人の人間として描くことに成功している。

 

 クルエラがなんの超常の力も持たないことがむしろこの映画のコンセプトにはあっているのだろう。彼女は、ただファッションセンスに秀でた普通の女なのだ。故に、この映画で描かれる戦いは頭脳戦であり、女の闘いであり、人間社会の復讐劇なのだ。アイアンマンのスーツ、キャプテン・アメリカの超人血清とは根本的に力が違う。この映画には、ごくありふれた人間の(ただしある意味ではおぞましい)チカラが描かれている。

 

 脚本について、複数のテーマを織り込む手腕も素晴らしい。かつ物語に破綻は殆どないのだ。権力への反逆、個性と社会、自由と束縛、体制への批判、友情・家族と個人の生き方。この映画は観客によって様々にその姿を変えるだろう。

 

 1970年代という時代のチョイスも絶妙だ。イギリスでパンク・ロックが生まれた時代。体制とか伝統、いわゆるクラシックなものに全く新しい音楽が立ち向かった。そういった存在とクルエラの生き様がリンクする。劇中の音楽にもセックス・ピストルズやクラッシュが使われて、その雰囲気を後押しする。

 

 唯一の欠点はラストのオチだろうか。なんというか、いろいろ突っ込みどころが多い。それ以外は絶妙な緊張感を保ってきたばかりに、その性急な感じが際立つ。ラスト15分以外はすごくいい雰囲気が漂っているだけに残念だ。ついでにいうと、エンディグで流れるクルエラのテーマ(Call me cluella)が吹替版だと柴咲コウが歌うものに置き換えられている。ここは正直オリジナルで流してほしかった。映画館からの帰りに、わざわざAmaon primeで原曲を買ってしまった。個人的には字幕版で観るのをおすすめしたい。

 

 最後にもう一つ。この映画は101シリーズの名に恥じない「犬映画」だ。作中には5頭の犬が登場する。かわいい。実にかわいい。ワンちゃんたちを観るだけでもこの映画の勝ちがある。よく注意してエンドロールを観ると、すべてのワンちゃんがクレジットされている。さらにダブルもいるらしく、彼らも皆クレジットされている。あと、動物愛護に関する明記もされている。この辺に進んだ欧米の文化を感じた。この潮流から日本映画も逃れることはできない。個人的には少々心配ではある。

引っ越し大名

 

引っ越し大名!

引っ越し大名!

  • 発売日: 2020/04/08
  • メディア: Prime Video
 

 

 播磨は姫路城に居を構える越前松前藩は唐突に豊後国へ国替えを命じられる。さらに減封のお沙汰付き。藩士とその家族、ありとあらゆる調度品。すべてまとめて大引っ越し。だれもがお役を嫌がる中、本が大好き書庫番の片桐春之助(渾名はかたつむり)に引っ越し大名の白羽の矢が立つのであった。

 

 こういう切り口もおもしろい。「国替えは諸国の力を削ぐための幕府の江戸政策」と言葉で言えば簡単だが、それが如何に大変でどう国の力を削ぐものか、歴史に疎いぼくのような人間には細かく想像することができない。この映画はそことのところを補ってくれる。しかも、コミカルで大変楽しい。

 

 ただ、まぁ、ちょっと気になるところはある。前引っ越し大名の娘・お欄が重要人物として出てくるが、この時代に女性がこんなに全面に出てくることができるものだろうか。主要人物の片桐と鷹村は髪型が現代風である。髷は結っているが月代は無い。仮にも城務めをしている侍に許されることなのだろうか。まぁそんなことを気にしてもこの映画のおもしろさには関係ない。痛快なエンタメ引っ越し映画として楽しめばいいのだろう。

雨に唄えば

 

雨に唄えば(字幕版)

雨に唄えば(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

  一昔まえのお話。映画スターのドンとリナはスターカップル。ハリウッドの話題を独占していた。しかし、映画界に新しい波が訪れる。トーキー映画である。映像だけで構成されていた映画に、音が入る。容姿と演技だけでなく、俳優たちはその声にも理想を求められるようになる。時代の大きなうねりなかで、ドンはうれない女優ジェシーに出会う。

 

 往年の名作。今はAmazon prime videoで誰でも気軽に見ることができる。いい時代になったものだ。映画がトーキーへと移り変わっていく激動の時代を滑らかで爽快な物語と軽快なミュージカルで楽しく観ることができる。よく構成された映画は実に心地良い。

 

 

 現代には通用しない物語かもしれない。しかし、そういう時代は確かにあったのだろう。現代の目線からも、ハリウッドの歴史を感じるとれる良作であることは間違いない。

騙し絵の牙

 

 

映画『騙し絵の牙』オリジナル・サウンドトラック

映画『騙し絵の牙』オリジナル・サウンドトラック

  • 発売日: 2021/03/26
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

 薫風舎は歴史ある大手出版社。雑誌「小説薫風」を軸として日本の文芸会を盛り上げてきた。しかし時代には出版業界に厳しい。薫風舎も経営が苦しいことには変わりない。そして、社長の死をきっかけに、薫風舎は伝統派と改革派で真っ二つ。高野は伝統派の一角「小説薫風」に携わる若手編集者。しかしいろいろあって改革派が率いる雑誌「Trinity」の編集に移動することに。上層部が対立を深めていく中、Trinityの曲者編集長・速水の大仕掛けに高野は巻き込まれていく。

 

 映画を見終わった感想は「多分これ原作とストーリー違うんだろうな」だった。予告編を見る限り、本作はラストのどんでん返しが売りのミステリなのだが、正直、ちょっとこの映画のラストは弱い。一番大きいトリックも正直見え透いている。映画という枠に収めるには小説のボリュームは得てして大きすぎるので仕方がないことではあるが、だからこそ原作を分解・再構築する脚本の力は重要だ。邦画はその制作体制上脚本が弱い。この映画も脚本の弱さが出てしまったように思う。

 

 でも邦画は人間関係の妙を描くのがうまい。というか日本人は腹のさぐりあいが好きなのだろう。必要以上に包み隠し相手の出方を探る民族なので、見る方も作る方もその辺はやたらと習熟している。とはいえ、本作で策謀を張り巡らせているのは速水だけなので腹のさぐりあいも深みがない。良い主人公には良い悪役が必要だ。切磋琢磨するというか、腹を探り合うというか、相手がいて初めて戦いは成立するのである。デスノートのライトとLとか、JOJOのディオと承太郎とか。ヘヴィ級チャンピオンに対する挑戦者は素人ではいけないのだ。

 

 個人的には主人公・高野が邪魔である。彼女は文学を愛するがゆえに純真かつときに暴走する。純真なのは観客の目線なのだろう。観客は高野の目線で物語を追い、速水の仕掛けに騙される。暴走するのは狂言回しとしての役割だろう。そしてこの狂言回しがうざい。キャラクターいあわないのだ。文学に精通し、言葉を、表現を考え抜く編集者である彼女があまりにも軽率な行動を取る。「若いから」で説明するにはあまりにてきとーである。マンガならいいが、実写映画でこの馬鹿っぽさはまずい。萎える。単純に速水とライバルと一騎打ちで良かったのではと思ってしまう。高野はコメディ色を出す存在なのだと思うが、中途半端だ。むしろ要らない。

 

 総じて、期待はずれの映画だった。ただこの映画だけが悪いものではない。「予告編が一番面白い映画」というものはある。いっぱいある。この映画もその1つである。映画と原作で迷う人は、たぶん原作を読んだほうが楽しめるだろう。

 

 

シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇

 

 

 20数年前に世の中を震撼させたエヴァンゲリオン。その庵野秀明監督自身が「Rebulid of Evangelion」を謳った新劇場版シリーズ。そしてやっと辿り着いたその終章。それがこの映画である。

 

 以下、ネタバレもあるので読みたい人だけどうぞ。

 

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上を向いて歩こう

 

上を向いて歩こう

上を向いて歩こう

  • メディア: Prime Video
 

 

 昭和の時代。少年鑑別所から集団脱走した九と良二は奇妙な縁で刑事とヤクザにそれぞれ拾われる。心根をいれかえてまっとうな道を歩み始める九。一方で良二はギャンブルに手を出し、恩師のドラムセットを借金のカタにとられてしまう。二人の運命は奇妙に交錯していく。

 

 バブル時代の映画らしく、根っこから明るい雰囲気が漂い、若者たちのパワーが溢れている。今の日本からは想像もできないが、こんな時代もあったんだ。

 

 いまでは大御所のスター俳優の若い姿がみられるのも面白い。個人的には高橋英樹にびっくりした。いあやすっごいイケメンである。たまには古い映画を観てみるのもいいもんだ。気がつけばAmazon prime videoで古い映画もずいぶん見れるようになっていた。いい時代になってもんだ。

ゾンビーバー

 

ゾンビーバー (字幕版)

ゾンビーバー (字幕版)

  • 発売日: 2016/01/06
  • メディア: Prime Video
 

  アメリカの女子大生3人組。彼女からは夏休みを利用して湖でバカンスを楽しみにきたのだ。しかし、その湖には事故から生物実験の廃棄物が漏れ出し、ゾンビーバーが発生していた・・・。

 

 という、一から十までB級な映画。エロ・グロ・ナンセンス。アホな行動の数々。何一つ学ぶものはない。ゾンビーバーのぬいぐるみっぽさ(いや、ぬいぐるみなんだけど)。とにかく馬鹿な映画である。それでいい!

 

 真面目に見ては大損だが、漫画を読んだり、小説を読んだりしながら、ちょっとしたスパイス代わりにながすといい。世の中にはこういう馬鹿なものがある、馬鹿なものがあるのはいいことだ。