続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

黒博物館 ゴーストアンドレディ

 

 

 フローレンス・ナイチンゲールことフローは絶望しつつあった。恵まれ、そして縛り付けられた貴族の生活は彼女の理想にそぐわなかった。フローはある日、弱者を病気の人々を救えと神の啓示を受ける。看護の道を志すも時代は彼女に冷たかった。実の両親でさえ彼女の夢を愚かと罵る。そしてフローはとある劇場に取り憑く幽霊である灰色の男・グレイに頼む。自分が絶望したときに「殺してほしい」と。フローとグレイの物語が幕を上げる。時代は、大きなうねりを迎えていた。第一次世界大戦がヨーロッパに迫りつつあった。

 

 ぼくは生粋の富士鷹ジュビロファンなのでこの作品にも悪いこところは見いだせない。なにせ初めて集めたコミックが「うしおととら」なのだ。誰も僕を止めることはできまい。

 

 そしてこの作品は、まさに「うしおととら」の焼き直しだ。「お前が絶望したら殺してやる」と嘯くグレイは「お前を喰ってやる」と言い続けたとらなのだ。フローの真っ直ぐすぎるほど強い信念は蒼月潮の純粋さに通じるところがある。ゴーストアンドレディの物語は、弱いながらも弱いながらも強い信念を持つ人間を、力ある超常の存在が支えるという構図でうしおおととらに似通っている。

 

 一方、その内容は少年漫画の粋をはみ出している。少年と青年の間とでもいうべきところだとうか。乳首をさらりと書いちゃったり、史実をもとにするという教養を求めたり。絵的にも物語的にも小学生にはその深みにたどり着けない作品となっている。巻数もわずか2巻。うしおととらの40巻近い巻数をおもえばそのコンパクトさがよくわかる。

 

 個人的には作中人物の「眼」を観てほしい。人間と人外。理性と狂気。正義と悪。全ては登場人物の絵にあらわれている。「目は口ほどにものをいう」と言うではないか。この短編に「うしおととら」「からくりサーカス」「月光条例」を通してジュビロがたどり着いた一つの到達点を感じることができる。

 

 というわけでジュビロファンなな読むしかない一冊。あと学芸員(キュレーター)さんが前作にも増してかわいい。このかわいさがこのシリーズを支えているのは間違いない。「学芸員さんはかわいい」。それだけ読む価値のある「かわいい」なのだ。