続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

木を植えた男を読む 高畑勲 訳著

 

木を植えた男を読む

木を植えた男を読む

  • メディア: 単行本
 

  ジブリの天才たちに大きな影響を与えた小説・アニメーション作品「木を植えた男」。その翻訳、解説を高畑勲が行った本。原文(フランス語)、訳、高畑勲による解説、アニメーションの解説、さらにアニメーション版の監督であるフレデリック・バック高畑勲の対談まで含まれているのに非常にコンパクトにまとめられている。

 

 かつてアカデミー賞を取ったというアニメーション映画なのだが、ぼくは残念ながら観たことがない。とはいえ今回高畑勲訳の原作小説を読んで作品のパワーは感じた。

 

 一人の老人がただただ荒れ地にドングリを植え続ける。二度の対戦も我関せず、男の孤独な仕事はついに森を生み出し、かつての荒れ地には人々の豊かな暮らしが生まれつつあった。読み終わったあと、優しく雄大な風が吹き抜けたような爽やかな気持ちになれる。一人の人間が世界を支える力になれるという実感がそこにある。

 

 高畑勲の解説を読むにつれ、本作が書かれた時代と原作者、ジャン・ジオノの先見性を知ることができる。高度な文明と経済の成長がこの世の全てだと信じられていたころに、ジオノは自然を搾取しすぎては人も滅びることに気づいていた。自然の営みのなかに身をおいてこそ人はほんとうの幸せを見いだせるのではないだろうか。

 

「彼は見つけたんだ。しあわせになれるあんな素晴らしい方法を!」

 

 この作品を深く理解するためには「Ggénérosité(ジェネロジテ)」というフランス語を知る必要があるらしい。その背景には成熟したキリスト教文化とフランス文化があるようだ。どうも日本語には対応する言葉がないし、日本語で表現することも難しいこの言葉。いつか心から理解できる日があればと思う。