続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

熱帯 森見登美彦

 

熱帯

熱帯

 

 「生き延びることが大切だよ、佐山くん」

「なんとしても生き延びることだ」(栄造氏)

 

森見登美彦渾身の怪作。

 

物語は誰も結末を知らぬ謎の小説「熱帯」を巡り始まる。熱帯の物語を追う中で、語り手は入れ替わり、物語の中に物語が生まれていく。幾重にも重なる入れ子構造の中で、読者は幻惑の世界に誘われていく。

 

どちらかというと「きつねのはなし」や「宵山万華鏡」のような作者独特のホラーとファンタジーの入り混じる小説。物語にはなんども千夜一夜物語が例に挙げられ、この物語も同じように入れ子構造であることが示唆される。

 

この小説の目指すところはやはり「胡蝶の夢」なのではあるまいか。現実と虚構。その境界線とはなんなのか。はたまた境界線など存在しないのではなないか。現実に生きる我々は向こう側へ到達することはないのだろうか。「創作」をするものにはいつもこのテーマがつきまとう。軽快な作風を得意とする森見登美彦も例外ではないのだ。

 

その他、細かいネタが色々あるが、作者の小説家としての体験のようなものが滲み出てくるところが面白い。小説そのものを楽しみつつ、作者の生活が垣間見えるようだ。