続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

とりつくしま 東直子

 

 この世に生きるものは皆死ぬ。死んだあと、魂だけになったあと、この世に未練のあるものは「とりつくしま係」に声をかけられる。最後にもう一度だけ、モノにとりついてこの世に戻ることができるのだと。

 

 独特の世界観で描かれる短編集。人が違えばそれぞれ事情もちがうので、十人十色にモノへとりつき現世への想いを成し遂げようとする。想いはときに愛情であり、ときに呪いであり、ときに文字にならない感情であったりする。短い物語のなかで死者の感情(変な言葉だが)を強烈に描いた作品ばかりだ。

 

 お話もおもしろいが、個人的には独特の世界観のほうが気になる。この作品世界の魂のルール、とでもいうべきものは「とりつくしま係」に関すること以外明らかにならない。あえて想像の余地を残したというところで、そこをあれこれ想像してみるのも楽しい。いや、一部にはむしろ恐ろしいところもある。

 

 短いながらもエンターテイメント性に富んだ作品集。電車で読むのに丁度いい。