太宰治傑作選 奇想と微笑 森見登美彦編
- 作者: 太宰治,森見登美彦
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/11/10
- メディア: 文庫
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ぼくがそうであるように、編者森見登美彦さんも「ダメな人間」を心に持つ人なのだろう。絶妙なチョイスで、読者を太宰ワールドに引き込んでくれる。それは静かで、淡々として、それでいてうっとうしいほどに純粋である。もしくは、それらを表面的に演じる卓越した表現力である。
森見登美彦による、他の短編集ではあまりお目にかかることのできない、ちょっとコアな、それでいて魅力溢れる太宰ワールドのチョイスは流石。巻末の編集後記と合わせて、自分の解釈と森見登美彦の解釈を比べるのも楽しい。
個人的には「畜犬談」がお気に入りだ。犬は嫌だ、犬は間抜けだ、犬は恐ろしいと散々悪口を言っておきながら、太宰はなんだかんだで犬の世話をしている。エサをやる、散歩にも行く。今風に言うならツンデレである。人間の闇を見つめることの多い太宰の作品の中で、妙に微笑ましい暖かさがある。もちろん闇も含まれている。絶妙な溶け込み方をした光と闇は陰陽図のようである。これはぼくにとっては新しい発見であった。