続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

きりぎりす 太宰治

きりぎりす (新潮文庫)

きりぎりす (新潮文庫)

負けた、これはいいことだ。そうでなければいけないのだ。(黄金風景より)

 太宰治はつくづく優しい。周りの人の一挙手一投足、一言に必要以上に感じ入り、そして悩む。この短編集ではそのようなエピソードが描かれる。ほんの些細なこと、忘れて今を楽しべば良いこと。でも、そうできない人間もいる。あまりにストイック。あまりに理想主義。それでも日々を生き抜こうとする足掻き。そういったものを感じる短編集だ。
 ぼくが気に入ったのは『畜犬談』。犬が嫌いだ嫌いだという主人が、なんだかんだで犬をペットにするお話。なんとも可笑しいお話で、太宰治らしくないが、この短編集の中で休憩所のような位置付けになっている。ツンデレの走りかも知れない。