オーケンののほほんと熱い国へ行く 大槻ケンヂ
- 作者: 大槻ケンヂ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1998/09
- メディア: 文庫
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『熱い国を旅したい!』(著者)
オーケン初の書き下ろしエッセイとのこと。
インドとタイ。2つの熱い国をオーケンがほてほてと旅する。
インドでは常識をぶっ飛ばされ、タイでは多くの人と出会う。くだけた読みやすい文体で綴る旅の思い出を読むと、居酒屋でオーケンから旅の話を聞かせてもらっているような気分になる。
長らく旅なんてしていない。海外なんていつ行っただろう。どこか遠くに行ってみたい。どうせならギャフンと常識を知らぶっ飛ばされたい。ぼくもインドに行ってみたくなってきた。
風の谷のナウシカ 宮崎駿
ワイド判 風の谷のナウシカ 全7巻函入りセット 「トルメキア戦役バージョン」 (アニメージュ・コミックス・ワイド版)
- 作者: 宮崎駿
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2003/10/31
- メディア: コミック
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『もうこれ以上、死んでも殺してもいけない。生きろ、と』(ナウシカの言葉を伝えるチクク)
映画はもちろん超有名。その原作漫画であり、宮崎駿が映画を作るために連載した一作。当時は原作なしのアニメ映画なんて作れなかったので、まず漫画から書いたというのだ。人気が出ないと映画は作れないわけだが、その辺はさすがに天才・宮崎駿ということだろうか。
今読んでも全く色褪せない面白さ。1980年代にこんなストーリーと設定で漫画を描ける人はそうは居なかったのではないだろうか。
宮崎駿監督の世界観、歴史観などが濃厚に詰まった作品。多少の変化はあるだろうが、根底にはこの漫画で描かれるようなものが後のジブリ作品にも息づいていると思う。
映画を見たなら是非読んで欲しい。
22年目の告白 ―私が殺人犯です― 入江 悠
5人を殺害した連続殺人犯。その手口は、ロープで首を締めてターゲットを殺害し、それを被害者な身近な人物に正面から見せつけるという残酷極まりないものであった。警察の必死の捜査も実らず、事件は時効を迎えてしまう。その日は日本から死刑に相当する罪の時効が撤廃される、わずか1日前のことであった。そして事件から22年後、突如犯人が名乗り出る。事件の告白本の出版を引っさげて。メディアに露出し、被害者を挑発するように宣伝活動を行う犯人。果たしてその狙いはなんなのか。
映画館で予告編をみて惹きつけられた。いい予告編だったのだと想う。一方で、この予告を見てしまうとなんとなくストーリーは予想できる。オチある程度予想がつきそうなもの。そんなわけで予告編を観ないで映画館へ行った人の感想も聞いてみたいところ。
この作品で力を魅せつけたのは藤原竜也だろう。デスノートやカイジの映画化の頃から、この人は独特の緊張感を放つのがすごくうまい。その緊張感がこの映画では最大限に活用されている。映画全体をしっかりと引き締め、何が起こるかわからないハラハラ感を観客に与えている。
映像やBGMもこの緊張感を活かすようにしっかり方向性が立てられている。臨場感のあるハンディカム風の映像、ニュースの生放送を模した映像などで現場の雰囲気がでている。BGMも主張のはげしくない、単調なピコピコ音がリアリティがあって良い。
そんなわけで「藤原竜也の緊張感」を大いに味わえるこの一作。この方向性に耐える藤原竜也もすごいし、この方向性を見出した監督もすばらしい。映画館で観ることをおすすめしたい一作だった。
水木サンの幸福論 水木しげる
「実はてんぷらは嫌いなんだよ」(著者)
妖怪マンガ家、水木しげるが幸福とは何かを考える。生涯を通して考え抜き、そして老いてなお答えのでない「幸福」とは何か。著者なりの考えが第一部にまとめられている。
第二部は、著者が自身の人生を振り返る「私の履歴書」。壮絶な人生を、軽く愉快な調子で語る。
水木しげるさんはぼくのイメージでは「のんびりした漫画家」であった。
手塚治虫と対比されることが多いと思うし、実際、最近の著者はのんびりした人であったのだろう。しかし、この一冊でぼくの水木しげるに対するイメージはがらりと変わった。好奇心旺盛に、自分の夢を目指したとてつもなく芯の強い人である。また、臨機応変に状況を読み、実に活発に行動した人でもあった。並外れた生命力を感じる。とてものんびりなんて言葉で表せる人ではない。
その人生は壮絶である。
絵を描く仕事を夢見るもなかなかうまくはいかず、職を転々とする。気がつけば戦争が勃発し世情はいっきにきな臭くなる。ついには著者も戦線に送り出されてしまう。
有名な話ではあるが水木しげるさんの片腕はない。戦争でラバウルに行き、爆弾でふっとばされたのだ。味方も全滅し、たった一人密林を逃げ惑う。奇跡的に生き残り他の部隊に合流するも、今度はマラリアを発症して生死の境をさまよう。
知ってはいたが、本人の言葉を読むと臨場感がちがう。本当に凄まじい修羅場をくぐり抜けてきた人なのだ。
戦争を乗り越え日本に戻っても、今度は貧乏が著者を襲う。また職を転々としつつ、やっとこさ紙芝居作家として絵を描く仕事に就く。しかし給料は安く、自転車操業の日々。食うものに困ることさえ有ったという。
必死に食らいつき、50を超えてついに売れっ子漫画家になるも、今度は超多忙な日々。
身体に鞭打って働くことになる。
うーん。全然のんびりしていない。激務の中で思いを馳せたのは南方の人々とのゆっくりとした暮らしであったようだ。著者はそこにこそ幸せを見出した。
著者の幸福論には「なまけものになりなさい」という言葉がある。著者の壮絶な人生を踏まえてこそ、この言葉の重みがよく分かるような気がする。なまけものになるのも、結構大変なことなのだ。
若きウェルテルの悩み ゲーテ
「天上の神様よ、人間は物心のつかぬ以前か、分別を失ってしまった以後かでなければ幸福にしていられない。あなたはこれを人間の運命と決めたのですか」(ウェルテル)
青年ウェルテルの恋と青春を描くお話。
前半は書簡形式で、ウェルテルが妹ウィルヘルムにあてて自らの近況を語る。愛すべきロッテとに出会い。恋。失恋と未練の心。ウェルテルの赤裸々な告白は恥ずかしいくらいだ。ロッテの一挙手一投足をを読み解き、一喜一憂する姿は滑稽なほど。しかしこれが恋なのだろう。周りが全く見えていない。
後半は編集者の記述としてウェルテルが死に至る最後の日々を描いている。ウェルテルは死に対峙してなおもロッテの恋心に支配される。死さえもロッテの為として、自己犠牲の心を胸にまっすぐ突き進むウェルテル。悲しいほどの愚直さ。燃え上がるような激情。どうもぼくには激しすぎて、実感がないのだった。
ICO 霧の城 宮部みゆき
- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/06/20
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プレステ2の同名ゲームのノベライズ。著者がゲームにハマったのがきっかけらしい。
ぼくはゲーム未プレイ。なんとなくタイトル、装丁(どうもゲームと同じらしい)が気に入って、いわゆるジャケ買い。どうも、読者としては今ひとつだったようだ。
今ひとつ作品の世界観に入り込めなかった。たぶん、ゲームをやっていたらもう少し情景がイメージできるんだろう。設定やストーリーにも、違いはあるようだがもう少しなじみを持てたのだろう。
結局、序盤以外はあんまり楽しめなかった。中盤からはだれてしまい、終盤に真実があかされても「ああ、そうですか」という感じ。なんとか読破した。どうも疲れる読書になってしまった。
ローガン マーク・ハミル
- 出版社/メーカー: 20th Century Fox
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「背負って生きろ。全部」(ローガン)
時は2029年。超能力を備えた新たな人類、ニュータントは滅びの危機に瀕していた。かつてX-MENの一員であったウルヴァリンことローガンは、ドライバーとして生計を立てつつ、アルツハイマー病で力のコントロールができなくなりつつあるプロフェッサーことチャールズの面倒をみていた。もう何年も新たなミュータントが生まれてこないとされるなか、ローガンはミュータントの少女と遭遇する。自身と同じ能力、力をもつ少女を前に狼狽えるローガン。チャールズは「君の娘だ」と、その少女「ローラ」を救うようローガンを諭す。
XーMENから派生したウルヴァリンシリーズもついに最後。アメコミヒーローもので、子供向け路線できたXーMENだが、本作は違う。なんとRー15指定で子供達を映画館から追い出したのだ。タイトルもヒーロー・ウルヴァリンではなく個人名であるローガン。ポスターに映るローガンはボロボロである。
期待しすぎは良くないといつも思っているのだが、この映画は期待に応えてくれた。物語の最終章を見事に結んだ作品と言えると思う。ウルヴァリンというヒーローの物語ではない。ローガンという1人の男の物語の終わり。そしてミュータントという新たな種族にとって大きな節目が迎えられる。
作品全体に西部劇の影響が強く観られる。荒野を舞台とする戦いや、ハードボイルドな世界観。罪を抱えた男・ローガンの生き様は「許されざる者」を彷彿とさせる。ヒーローではない。一人の男としてのローガンの苦悩が描かれる。その苦しみは超能力などとは関係ない。「人を殺した」という事実から来る、自分を受け入れることの出来ない苦しみである。また、その能力故に人より長く生きてきたローガンであるが、その素性故に人生は叩きの日々であった。安らぎを知らず、過程の温かみを知らず、普通の幸せを受け入れられないストイックすぎるローガンの精神はボロボロであった。
さらに骨格に結合されたアダマンチウムは、その毒性によってローガンを苦しめる。もはやヒーリング・ファクターの力は衰え、ローガンは以前の超人ではなかった。死に場所を求めるかのようなやけっぱちな生き方もローガンを壊していった。
新キャラ、ローラはローガンの娘とでもいうべき存在である。あのウルヴァリンがパパになるとは!本作はかつてのヒーロー・ウルヴァリンが、一人の男。ローガンになり、そしてパパになる過程を描く物語である。そして、ローガンに欠けていた「普通の幸せ」がもたらされる物語である。乗馬マシーン(遊園地の遊具みたいなやつ)が止まって駄々をこねるローラに、「コレで最後だぞ」といいながらコインをいれてやるローガンを観ることになると誰が思うであろうか。2人の絆が結ばれていく過程を是非映画館で観て欲しい。
ヒュー・ジャックマンの演技は流石のもので、ストイックながらも情熱的、衰えながらもパワーあふれるローガンを見事に演じている。
加えてローラ役のダフネ・キーンの演技もすごい。危機迫る戦闘シーンやアクション。心を閉ざしながらも、次第にローガンに心を寄せていく演技がすばらしい。ローガンがパパになっていくように、ローラは戦闘マシーンから娘へと変化していく。
ウルヴァリンシリーズを観てきた子どもたちにもぜひ観て欲しい。大きくなってから。ヒーローだって人間なのだ。
そして、最後にマーク・ハミル監督、ヒュー・ジャックマン、パトリック・スチュワートらの「作品をしっかり終わらせる」という意志を感じて欲しい。