続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

月は無慈悲な夜の女王 ロバート・A・ハインライン

 

月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748)

月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748)

 

 

There ain't no such thing as a free lunch.

 

ハインラインによる本格SF。遠い未来、月は地球からの罪人が送られる監獄惑星となっていた。長い年月の中で月には独自の文明が発達し、地球文明は月の人民を制御し、穀物を搾取していた。進化したコンピュータ(電算機)は今や都市の中枢をコントロールし、度重なるハード増設の結果、月のメインコンピュータは自我を持つに至った。しがない技師のマニーは、ある時コンピュータ・マイクの自我に気づく。それは月社会が自らの権利を求める革命へ繋がっていく運命の出会いであった。

 

驚くべきはこれが1966年に発行された小説であるということだろう。今尚、この小説の描く未来は”未来”である。そしてそれは”有り得る未来”であるのだ。今から50年以上前に、ここまで未来を鋭く察せる作家が居たことにまずは驚くしかない。

 

この作品は、作品の世界が過去になるまで、燦然とSF界に輝き続けるのであろう。そして時代ごとに読み手の興味も変わっていくはずだ。

 

現代を生きる僕は、AIやディープラーニングが話題の昨今、自我を獲得した機械・マイクに興味を持たざるを得なかった。人工知能が目指すところは、驚異の計算能力でも、博覧強記の記憶力でも、完璧に論理化された思考回路でもない。それらに基づく”意思”なのだ。

 

機械が自ら意思決定を行う時、人間はその莫大な力を頼り、同時に怯えることになるのかもしれない。自我持つ機械は世界の光にも闇にもなる。本作は恐るべきリアリティでAIの力を描いた類い稀なる作品なのである。