夜間飛行
- 作者: サン=テグジュペリ,堀口大學
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1956/02/22
- メディア: 文庫
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あのわからずやのリヴィエールめが・・・僕がこわがると思っているんだよ!
(同僚の行方不明を聞かされ、出発しようとする操縦士)
実はこの本を読んだのはもう2年ぐらい前だ。しかも、その時点で2度3度・・・いや10回くらいは読み直しただろうか。それだけの面白さを含み、なお精読を必要とする作品だとぼくは思う。読めば読むほど新しい発見のある、実に深い作品だ。それだけにうまく感想がまとまらなかった。
話としては、まだ飛行機ができたてのころ、空を飛ぶことが命がけの仕事だったころのお話。戦後、飛行機は郵便事業に用いられ、車や機関車を抜く新たな輸送方法として注目をあびる。しかし、飛行機が車や機関車に勝つためには、夜の闇の中でも輸送を続ける必要があった。いかに速くとも夜の間休んでいては、圧倒的に不利なのだ。本作ではこの「夜間飛行」の業務に携わる人々の奮闘が描かれる。それは、あるものは命をかけ、あるものは強い心で組織を動かし、またあるものは組織の駒として、それぞれが懸命に「夜の恐怖」に打ち勝とうとする様である。しかし、これは単なる飛行機の歴史小説ではない。著者サン・テグジュペリ(飛行機乗りだった)の経験に基づく、強烈なリアリティをもって描かれるこの作品には、全編を通してフロンティア・スピリッツ・・・というか「人間の魂」のようなものが込められている。未開の地を、未開の空を、未開の夜を切り開く、困難に立ち向かう精神はまさに人間そのものである。このわずかな短編の中に「人の生き方」を集約させた著者はまさに天才である。本当に若くして亡くなったことが悔やまれる・・・。
余談だが、サン・テグジュペリの代表作といえば「星の王子様」である(いまや聖書に次ぐベストセラー)。是非「夜間飛行」と合わせて2冊を読み比べてほしい。まるで別人が書いたかのようなギャップに驚かされるが、その奥にある本質は同じだと思う。うまくいえないが「人間賛歌」とでもいうところだろうか。