続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

風の帰る場所 宮崎駿

トトロでお馴染み宮崎駿監督の対談集。ノーカットということで、監督の言葉を真正面から受け取ることができる。

ナウシカから始まった監督の映画は、いつも時代のうねりの中で形を作ってきた。そんな大変な現場の雰囲気と、時代時代の中で監督が何を作るべきと感じていたのかが察せる一冊。

終盤の監督の言葉に「どんな時代になっても世界を肯定したいという気持ちが自分の中にある」というのが個人的には印象的だった。そういう根幹を持ちながら、でもアニメーションでフィクションの世界を描く。そんなアニメを見て僕たちは何かしらのパワーを得て現実の世界を生きている。なんとも不思議な…いや、当たり前のことなのかもしれない。

最後の将軍 徳川慶喜 司馬遼太郎

司馬遼太郎の書く歴史小説が本当の歴史だと思ってはいけない、という言葉を聞くこともあるが、それでも歴史に疎いぼくのような人間にリアルな時代の風を感じさせてくれる本は貴重だ。

本作は徳川家最後の将軍・徳川慶喜を主人公に、その類稀なる人生を描く。将軍家の宗家からははずれ、類稀なる才能を持ちつつも、幕臣たちからは疎まれたこの人は、時代の流れの中で何故徳川家を継ぎ最後の将軍となったのか。

時は幕末。日本は内部でも外側でも時代の嵐にさらされていた。力だけでは生きていけない。知恵と謀略を駆使して、主導権の奪い合いがおきる。そんな時代を生きぬき、そして終わりに向かわせた最後の将軍。まさに波乱万丈であり、そしてそんな時代に真っ向から対峙した人生。後年の楽しげな逸話(銀製の飯盒炊爨とか、自転車とか)にたどり着いたとき、思わず「お疲れ様でした」という気持ちになった。

利休にたずねよ 山本兼一

利休にたずねよ (PHP文芸文庫)

利休にたずねよ (PHP文芸文庫)

稀代の茶人、千利休をえがく歴史物。構成や着眼点がおもしろい。

千利休が作り上げた侘び茶の作法。それに溢れる創意と工夫は今の世にも生きている。ぼくはお茶のことは詳しく知らないが、そこには一座建立のためのきめ細やかな気遣いがあるのだろう。しかし、本作では思い切って現代に伝わるその気遣いを取っ払い、その形式だけを作品に持ち込んだ。そして、利休が何故その形式に行き着いたのか。その根っこにある事件を描いている。とても思い切った解釈で、まさに歴史ファンタジーという感じでおもしろい。

また章ごとに時系列や語り部を自在に入れ替えることで物語に立体感が生み出されている。時間や空間を超えて、さまざまなつながりに気づかされることで、時間に沿って流れるだけの単純な歴史ではなく、複雑な群像劇としての歴史物語になっている。

個人的には「へうげもの」を読んだこともあって登場人物や時代の空気を受け入れやすく、非常に楽しめた。こういう本に出会っていれば学校の社会の授業も楽しめたのかもしれない。

なめくじ艦隊 志ん生半生記 古今亭志ん生

なめくじ艦隊―志ん生半生記 (ちくま文庫)

なめくじ艦隊―志ん生半生記 (ちくま文庫)

談志もちょいちょい話題に出す志ん生。その波乱万丈の人生は、人生そのものが落語だ。そして志ん生もまた落語に人生を学んだ人なのだ。

人生ってなんだろう、と時々思う。しかし、この本を読みながら「所詮、成り行きに過ぎないのかもしれない」と思った。奇しくも談志の言葉である。世の中には人智を超えた大きな力の流れがある。その中で個人個人はなんとかかんとか浅ましく生きていくしか無いのだ。そんなことを志ん生は誰よりもよくわかっていたのかもしれない。一見行き当たりばったりの人生こそ、真の人生なのかもしれない。

内臓脂肪を最速で落とす 奥田昌子

わかりやすく読みやすい。研究データなどのエビデンスを示してくれることで「痩せよう」という気持ちにさせてくれる。そして痩せるためにできることがしっかりと提示されている。「健康にために痩せたい。けど何をどうしたらいいのかわからない」という人に持ってこい。とりあえずダイエットの入口はこの本で間違い無いと思う。

風立ちぬ 堀辰雄

風立ちぬ

風立ちぬ

風立ちぬ、いざ生きめやも。

宮崎駿監督と映画でお馴染みとなった一昨。原作には堀越二郎は関係ない。結核患者の嫁をもつ主人公の心情が淡々と、そして美しい景色とともに語られる。

戦前の貴族(華族?)文化を透明感ある文章で描いた作品。嫁である節子が結核患者であり、サナトリウムへ入るほどの重症患者でありながら、主人公と節子はお互いを慈しみ合う。まさに「愛」を描いた作品。

透明感の背景には、美しい風景描写がある。人の心を主題としながら、風景描写に力を入れるのは一見おかしいように思えるがそんなことはない。この風景描写は、主人公の私の眼を介した描写である。いかなる景色も主観によって脚色される。この作品に描かれる風景にこそ、主人公の心が反映されているのだ。そしてそこにある透明感は、主人公の澄みきった愛の現れなのだろう。

個人的に印象に残ったのは、衰弱した節子が山の影にお父様を思い描き微笑むところだ。主人公の私はその時なんとも言えない感情に襲われる。娘として父を慕う感情に、旦那としての地位を脅かされたのかもしれない。

心やすらかな終末を感じるいい作品だった。上品で軽やかな文章にも心惹かれる。うまく言えないがここに教養というものがあるのではないだろうか。

三島由紀夫 幻の遺作を読む〜もう一つの『豊饒の海』 井上隆史


三島由紀夫の遺作「豊饒の海」を、その構想ノートと時代を加味しながら紐解き、三島が製作しなかった幻の最終編を再構築することに取り組んだ一冊。

豊饒の海を読んでいないのになんとなく読んでしまった。なので著者の意見に賛成も反対もない。こういう本の読み方もあるのだな、という感じ。いずれ豊饒の海を読んでみようとは思うが、その時にこの本の影響をぼくは少なからず受けるのだろうと思った。