続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

少女キネマ 一肇

ずっと、暗闇におりました(プロローグ、第1行)
2浪の果てに中堅大学へ入学した十倉和成。かつてのキネマ研究部のボロ下宿で無為な日々を過ごす彼のもとに、天井裏から清楚な女子高生・さちが舞い降りてきた。果たしてこの出会いはどうなるのか。

よくまとまったストーリー。登場人物も分かりやすく楽しいキャラクターだ。お手本のような青春小説。そして十倉と、その友人にまつわるミステリが話を引っ張る。

森見登美彦の「夜は短し~」と同じ匂いを感じた。個人的にはとても好きなジャンルである。

全部読み終わったあと、もう一度プロローグに戻るといい。全てが繋がって、すごくいい余韻に浸れた。

機動警察パトレイバー2 the Movie  押井守

 

機動警察パトレイバー2 the Movie [Blu-ray]

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 「戦争でもするつもりかねぇ」(後藤隊長

「戦争ならとっくに始まってるさ。あとはどう落とし前をつけるか、だ」(荒川)

 

数々の事件から時はたち、特車二課のメンバーも散り散りに新たな職場で働いていた。しばらくは平和な日々が続くと思われたが、ある日ベイブリッジが爆破される。しかも、爆破したのは自衛隊の戦闘機。一体何が起きているのか。東京を舞台に戦争が起こってしまうのか。

 

むかし何度か観たが、ふと見直したくなって借りてきた。

 

個人的には押井守監督といえばこれかGhost in the Shellのどちらかという感じ。このパトレイバーのほうが、主役のいない(いや、一応いるのだが)群像劇という感じがして良い。チームとしての戦いではなく、それぞれが自分にできることをしていく。おかれた状況のなかで、それぞれのキャラクターが生きている、という感じがする。

 

とはいえ、旧特車二課のメンバーが幻の新橋駅に集合し、後藤隊長の命令を受けるシーンはかっこいい。しびれる。とくに後藤隊長の「邪魔するものは、実力でこれを排除しろ」という言葉が、メンバーへの信頼を表していていい。なんだかんだで、かっこいい映画なのだ。ホント。

古くて豊かなイギリスの家 便利で貧しい日本の家 井形慶子

古くて豊かなイギリスの家 便利で貧しい日本の家 (新潮文庫)

古くて豊かなイギリスの家 便利で貧しい日本の家 (新潮文庫)

日本の家はこのままでいいのか(はじめに、の表題)

イギリスかぶれが英国の家を褒めちぎり、日本の家をこきおろす一冊。はじめの100ページほどで読むのをやめた。自分の国にダメ出ししているヒトをみるのは、なんとなく恥ずかしいものだ。

建築はその地方地方のカルチャー(文化、というよりは生育環境という意味で)に大きく影響される。欧州では古来より石の建築が発達した。材料として豊富な石材があり、地震などの災害も少ないためだろう。石の建築は丈夫だ。パルテノン神殿だって、壊れてはいるが今もなお建っている。だから、欧州では家は永くあるものと認識されているのだ。部分的に修繕を加えていけば、人間の寿命からすれば永遠のような時間を家は耐える。そして、永くあるものを作る上ではその影響を深く考えてプランを練るのが当然だ。

一方、日本では木の建築が発達した。国土の大半が山で木材には困らない。地震が多い本邦では石の建築は崩れて危険だ。木の建築は脆い。地震雷火事親父、台風一過で更地に帰る。だから、日本では家は壊れるものなのだ。そう遠くないうちに壊れるだから、あまり深く考えてつくらない。周辺の景観への配慮などあるはずがない。その周辺の景観の方が先に変わってしまうかもしれない。日本の家はどこまでいっても仮宿なのだ。

もちろん西洋文化流入で、日本の建築も丈夫になった。地震には耐えられないが、台風ぐらいならよほど直撃を食わない限りは大丈夫だろう。だが、人々の意識のはまだ変わっていないと思う。日本全国に多数ある空き家がそれを物語っていると思う。「ほっといてもそのうち崩れて自然に変えるだろう」という意識が家主にはあるのだ。まさか自分が死んでも家だけ残っていると持ち主は思っていないのだろう。

西洋文化に憧れるのはいいが、上っ面だけ真似してもいつまで経っても追いつかない。自分自身の足元見つめることも必要だ。

火垂るの墓 野坂昭如

アメリカひじき・火垂るの墓 (新潮文庫)

アメリカひじき・火垂るの墓 (新潮文庫)

ジブリ高畑勲監督が映画化したその原作。

淡々と書き綴られる清太と節子の戦時下での暮らし。句点で区切りながら長々と続く一文を多用することで、年相応に、考えをまとめきれれず苦悩する様子が描かれる。

この小説は誰目線で書かれているのだろう。登場人物ではない。神の目線とでもいうべきもので綴られる。それがなんとなく恐ろしいというか、不安をかき立てる。

おそらくはこの目線は作者のものなのだろう。作者は清太と近い境遇で妹を亡くし、自分だけが生き残ったことに苦しみ、妹に捧げるつもりでこの作品を作ったと聞く。自分も清太と同じように死ぬべきではないか。そんな苦悩がこの目線に凝集されているように感じる。

ライブハウスの散歩者 大槻ケンヂ


オーケンのエッセイ。東京の様々な街にあるライブハウス(通称ハコ)について、思い出を交えながら面白おかしく語る。

ライブハウスの紹介本のように見えるが、実際の中身はいつものオーケンのエッセイで、オーケンの最近や若かった頃の思い出話がメインである。ライブハウスにいったことのないぼくでも、それなりに楽しめた。

でも、実際にハコを訪れたことがある人にしかわからないこともあるのだろう。かつてバンドの追っかけなんかをしたことがあるお姉様方が、1番この本を楽しめるのではないだろうか。

学問のすすめ 福沢諭吉

学問のすゝめ (岩波文庫)

学問のすゝめ (岩波文庫)

『天は人の上に人を造らずと言えり』
『されば賢人と愚人との別は、学ぶと学ばざるにとに由って出来るものなり』

冒頭の一文は有名だが、読んだことの無い人の方が多いと思われる一冊。こういう本は意外とある。そしてこういう本こそ読むべきでは無いかと最近思ったのだ。有名な一文だけでその一冊の言わんとすることを計ってはいけない。当たり前ではあるのだが。

さて本作は学問に対する福沢諭吉の考えをまとめたものである。どうして人は学ばなくてはいけないのか。学問を持って人は何をすべきなのか。また国と民のあるべき姿とは。これは生きるために必要な教養だと思う。全て正しいとは言わないが、こういう考え方を持つことが大切だ。一人一人の人間が、地に足つけて生きることが、国の発展につながる。安寧に身を任せては、人も国も滅んでしまうのだ。

小学生や中学生に文体が難しいが、是非若い世代にこそ読んでほしい。現代の平易な言葉に直した改訂版とか出ないだろうか。そして小学校の教科書に1章だけでも載せてほしいと思った。

史上最強の哲学入門  飲茶

 

史上最強の哲学入門 (河出文庫)

史上最強の哲学入門 (河出文庫)

 

 「史上最高の真理を知りたいか!?」

 

「哲学ってなんだか難しいことを考えるだけで、なんにも役に立たないじゃん」と思う日本人が多いと思う。哲学の教育ってほとんど日本国内でされいないと思うし、学ぶ場もないんじゃないだろうか。

 

しかし、人間のさまざまな営みの根幹に哲学は根ざしている。政治、経済、歴史、宗教、科学、個人の生き方、国家の生き方。ものごとの基盤となる「考え方」を考えるのが哲学である。

 

そんな哲学を、広く、浅く、簡単に紹介してくれるこの一冊。平易な言葉と、マンガのセリフネタを交える軽いノリで、スラスラと哲学を学ぶことができる。「哲学入門」にふさわしい一冊だ。

 

この本を読むと、現代の日本人は哲学を持たない民族のように感じられた。僕たちはどこに自分の足場を置き、どこを目指して生きているのか。そして「哲学を持たない」ためにぼくらはどうなっていくのだろうか。次の時代を乗り越えるために、ぼくたちには今こそ哲学が必要なのではないだろうか。