鬼物語 西尾維新
- 作者: 西尾維新,VOFAN
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/09/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 9人 クリック: 495回
- この商品を含むブログ (117件) を見る
あいつのことを思い出しながら話そう(阿良々木暦)
物語シリーズ第11弾。刊行順は完全に無視して読んでみている。そんなわけで、細かいネタや一部登場人物などはいまひとつ把握できていない。
軽妙な掛け合いや、テンポのいい長台詞は読んでいて楽しい。ストーリーも斜め上を行く感じでまぁまか楽しめた。このシリーズはとにかく「軽い」のが売りなんだろうか。力を抜いて、ただただ楽しむことができる。30分の電車移動なんかの時に読みたい本だ。
ミッドナイト・イン・パリ ウディ・アレン
「現代」って不安なもんなんだ。それが人生だから。(ギル)
主人公ギルは売れっ子脚本家。でも、夢を目指して小説を書く。婚約者とのパリ旅行中も、彼は小説を書き続ける。そんな彼はひょんなことから「黄金時代」と呼ばれたパリへタイムスリップする。ヘミングウェイやダリといったもはや伝説の人々と出会う日々。美女アドリアナとの出会い。一方で、婚約者との関係は悪化していく。果たしてギルの決断やいかに。
ゴッホ大好きなぼくとしてはパッケージで無視できない作品。そして中身も中の上ぐらいの高評価。観てよかったと感じる一作だった。
シェイクスピア、ピカソ、ダリ、ゴーギャン、ダリといった個人的に大好きな人物が生き生きと主人公の前に現れる。作品を通じて彼らを知るのもよいが、一人物として描かれる彼らを観るのもいいいものだ(どちらも受けての創造の産物であることに違いはないが)。
作中には多くのテーマが含まれるが、1つの大きなテーマは「懐古主義」だ。昔はよかった、という気持ちはいつの時代にも存在するのだ。その安心感。その意味。それを改めて考える良いきっかけっとなる映画ではないだろうか。主人公ギルの答えは冒頭の引用文だと僕は思う。一方で、この作品には別の答えもあるのだが。
人生に対するするどい含蓄を含む言葉が端々に現れる。繰り返しっ観る必要のある映画だと思った。時代が変われば、そこに含まれるメッセージもまた変質する。そういう普遍性がある映画のように感じた。
ミス・ペレグリンと奇妙な子供たち ティム・バートン
ティム・バートン監督は世界の隅っこに目線を向ける。そんな監督だとぼくは思っている。
それは独特の世界観として監督の映画に反映される。ナイトメア・ビフォア・クリスマス、シザーハンズなどは実に印象的な名作だ。
このミス・ペレグリン~のトレイラーを観たとき、これこそ監督にぴったりの設定だと思った。
人知を超えた力を持つために、ミス・ペレグリンの庇護のもと俗世から隠れて生きる子供たち。そこに外界からやってきた主人公。主人公は子供たちと力を合わせ、それぞれの力を生かして大いなる敵に立ち向かうことになるのであった。
おおむねこんなストーリー。「X-menじゃねーか!」と思ったそこのあなた。大体そんな感じです。そこをティム・バートンがどう味付けするの津用名のか。そこが見どころ。
・・・で、結果としてはがっかり。
ちょっと古臭いゴシックな雰囲気は非常にいい。映像や音楽のセンスはさすがティム・バートン。しかし、ストーリーと設定がいただけない。
特に邪魔だったのが「時間」に関する設定。主人公一行は過去と現代を行き来することになるのだが、その辺の設定が正直よくわからない。過去の人物が現在に来たり、現代人が過去にいったり。タイムパラドクスが思いっきりあるけど、さらっと無視してストーリーが進む。個人的にはそういうとこの設定は詰めてほしい。気になる。
敵がバカっぽいのも今一つ。自分たちが視認できないモンスターを使役するのはどうなのよ。
ほっといたら勝手に滅びる気がするんだけれど。
ストーリーでは「子供たちの見せ場」がどうも弱い。人数が多いので一人あたりに割ける時間が少ないのは仕方がない。しかし、もうちょっとインパクトのある活躍をそれぞれしてほしかった。意外性があまりない。なんかもうちょっと面白くできそうなんだが。ジョジョとかハンター×ハンターみたいな頭脳戦が欲しかった。いや、ティム・バートンはそういう路線じゃないのはよくわかっているけど、一つぐらい。
ただ、サミュル・L・ジャクソンの顔芸は一見の価値あり。中盤からとにかくいろいろな顔をしてくれる。笑いを取りに来ている気しかしない。とくに強力扇風機で顔がひん曲がっているところはなかなか。
もう一つ、ガイコツ兵士がコミカルに戦う様子はいかにもティム・バートンっぽい。たぶん、ここのイメージだけで制作会社はティム・バートンを監督に起用してるよね?
まとめると、本作は小学生のうちにみとけって映画。20超えたらちょっと厳しいだろうと思う。深く考えてはいけない。楽しめばいのだ。
浜村渚の計算ノート 青柳碧人
- 作者: 青柳碧人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/10/18
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
数学をテーマにした探偵小説、ということでぜひ読んで見たかった。しかし、どうにも今ひとつ。
数学を愛するものが犯罪を犯すというのもいただけない。数学は教育に良くないとして、文系科目に偏った教育改革の起きる世界設定もリアリティがない。
登場する数学の知識も割とあっさりしている。4色問題やインドで発見された0など。どこかで聞いたことがあるんじゃないだろうか。かといって犯人にキラリと光るカリスマやインパクトもない。
ついでに、各章を対数で表したり、項を平方根を表したりするのもちょっと露骨すぎて恥ずかしい。
というわけで、中学生以下にオススメする一冊。おっさんが楽しむには、少々テンションが高すぎる一冊だった。
六人の超音波科学者 森博嗣
六人の超音波科学者 Six Supersonic Scientists Vシリーズ (講談社文庫)
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/09/28
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
「学術的なデータ、新しい発想とそれを逐一確認するための労力、それらすべてが最上のものであり、時には人の命よりも、自分たちの人生よりも、大切なものです」(瀬在丸紅子)
Vシリーズ第7弾。山奥の研究所で博士が死んだ。パーティに招かれていた紅子と練無
、巻き込まれた保呂草と紫子、いつものメンバーが事件に挑む。
なんとなく森博嗣のデビュー作「すべてがFになる」を彷彿とさせる内容だった。もちろんストーリーは全然違うのだけれど。舞台が外界から隔絶された(に近い)研究所であるところや、首なし手無しの死体、超人的な博士、博士のための地下室などが似通っているからだろうか。
閉ざされた空間で犯人と一緒に過ごすという緊張感の中で物語が進んでいく。クラシカルなミステリっぽい感じがVシリーズの売りだと思うが、今回は特にその色が強い。ミステリ好きとしては安心して読んでいられる感じだ。
最後はもちろん紅子さんが華麗に事件を解決してくれる。今回の紅子さんは犯人に対する理解がとても深い。大変きれいな、品のある謎解きであった。ミステリのラストで大切なのは犯人や謎を暴くことだけではない。そこに探偵の個性を表すことが大切だ。今回は「紅子さんらしさ」をしっかりと発揮しきったラストではないだろうか。
あと、女の子らしい紅子さんもちょっと出てくる。これがシリーズ最高にかわいいので、紅子さんファンは是非ご一読あれ。
五輪書 宮本武蔵
- 作者: 宮本武蔵,渡辺一郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1985/02
- メディア: 文庫
- 購入: 7人 クリック: 75回
- この商品を含むブログ (39件) を見る
「我一流において、太刀に奥口なし、構に極りなし。唯心を持って其得をわきまゆること、是兵法の肝心なり」
剣豪、宮本武蔵がその修正己の兵法をまとめた五巻。戦いの技術書であり、大小2つの刀を扱う二天一流について書かれている。
しかし、技術よりもどりらかというと心理的な所に重きが置かれており、技術的なことはあまり書かれていない。戦いに臨むときの意識や心のあり方、相手との駆け引きが主であり、刀の振り方や脚さばきなどについて深く書かれているわけではない。
武蔵自身も、そういった細かな技術に興味はないようだ。兵法は「人を斬る技術」と言い切り、そのために必要なことをすれば良いと考えている。大局を捉えて行動するには、小手先の技術よりも、大まかな思考が重要なのだろう。
全体を通して「よくよく吟味あるべし」という言葉が使われる。常に状況を把握し、常に手を考えることが大切なのだろう。戦いの世界に正解はないのだ。それをサラッと書いてしまうところに、達人の凄さのようなものを感じた。
沈黙〜サイレンス〜 マーティン・スコセッシ
- 発売日: 2017/01/11
- メディア: Amazonビデオ
- この商品を含むブログを見る
『沼には何も根付かない』(岡田三右衛門)
日本での布教に苦しみ棄教する道を選んだ背徳司教のお話し。怖いくらいのリアリティを持って切支丹を描く。その過酷さたるや、目を背けたくなるほどだ。
信仰とは、宗教とは何かを考えるいいきっかけになりそうな映画。日本人なら一度は見てもらいたい。この世には色々な世界があるのではない。多様な世界観が有るだけなのだ。
印象に残ったのは『日本人は信仰の対象とするものを欲しがる』という描写。十字架、絵画、仏像、御神体、そして太陽。日本人はものに対していのりを捧げる。そこに神や仏が宿るからだ。つまり日本人の文化では神は『宿る』ものなのだ。一方で、キリスト教の神は『在る』ものだ。この差は大きい。宿る神からは逃れることができる。ものから距離を取ればいい。宿る依り代がなければ神は無い。これが日本人と西洋人の根本的な宗教観の(あるいは世界観の)違いだと感じた。
この映画、原作は日本人で出演者やスタッフにも多くの日本人が携わっている。日本の時代劇としても非常によく出来ている。繊細な心の機微、張り詰めた空気、日本のお祭り騒ぎの雰囲気。これをマーティン・スコセッシにやられてしまった。時代劇はもはや日本人にしか作れないものでは無いのかもしれない。