続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

エロ事師たち 野坂昭如

エロ事師たち (新潮文庫)

エロ事師たち (新潮文庫)

エロを生業に世間の裏を渡り歩くスブやん一味の暮らしを描く問題作。

裏稼業を扱うとはいえ、描かれるのはヒトの暮らしである。ドタバタ劇やミステリ要素は特にない。それでもこの作品が人を惹きつけるのは、妙に生々しい人間の暮らしがそこに描かれているからだろう。この作者の淡々とした描写は、意外にも生々しさを増す効果があるようだ。

世の中に背く生業であったとしても、人はそこで生きていくしかないこともある。逃げ出したくても、そうできないこともある。そんな生きることの哀しさが作品全体に滲み出る。用意周到に、時には大胆に、エロ事師たちは世の中で生きていく。

一方で、エロ事師たちは己が仕事に矜持を持ち、エロ道とでもいうべきものを追求していく。この辺り、職に貴賎なしということか。いや、人は己を肯定せねば生きていけないということか。

人間には表も裏もある。生きていくということは綺麗事で済まないこともある。この本は、そんな生きていく人間を必死に描く一冊である。