命売ります 三島由紀夫
- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1998/02
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「生きたいという欲が、物事を複雑怪奇に見せてしまうんです」(羽仁男)
己の人生に飽き飽きし、自分の命を売ってしまうことにした青年、羽仁男。彼の新聞広告に誘われて舞い込む奇妙な依頼の数々。果たして彼の運命やいかに。
平凡な人生に人は飽き飽きしている。いっそ諦めてしまおうと思うと、羽仁男のもとには数奇な運命が舞い込んでくる。人生はそんなものかもしれない。捨てようと思うと、案外いい方向へ転がっていくのだ。逆もまた然り。これは頭の悪い人間の言い分かもしれない。でも、頭のいい人間より、悪い人間の方が多いのだ。数が多いほうが正しいのなら、頭の悪い人間の人生が正しい。とにかく、思うようにならないのが人生だ。
三島由紀夫は名文家と誰かが評していた。確かに、本作はスラスラと読める。1968年の作品とは思えない。古臭さを感じさせない。テーマもまた現代に通じる。命を捨てようとする若者は今も昔もいるのだろう。社会とはそういうものだ。馴染めない奴はいるものだ。一部を切って、全体を生かすのが社会なのだから。もし、悲しい「一部」だと自分を感じるなら、本作を読んでみるがいい。諦めることで開けるものがあるのかもしれない。
おいしい生活 ウディ・アレン
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泥棒を生業とする、自称切れ者のレイは最高の銀号強盗を思いつく。銀行の隣に店を構え、こっそり地下を掘って金庫に侵入しようというのだ。さっそくクッキー屋を構え仕事にかかるレイと仲間たち。しかし、カモフラージュにつもりのクッキー屋が思いの外大繁盛してしまう。
世の中思うようにはいかないものだ。そんなことをコメディにしたおかしな映画。成功しているのに失敗している。失敗しているのに成功している。どうとるかは観客次第。
全体的にオシャレでユーモラス。どうもこの感じは日本人には出せない。笑いのセンスが違うのだろう。
映画 立川談志 加藤たかし
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「よそう。また夢んなる」(芝浜のサゲ)
落語界の化物、立川談志の晩年を見せるドキュメンタリー映画。
高座の姿だけでなく、舞台裏のリラックスした家元の姿を観れるのが嬉しい。
落語というものに、立川談志というものに触れてみるいい機会となる映画ではなかろうか。映画の後半は談志の芝浜。人間らしさ、あるいは人間の業がにじみ出ている。でも、個人的には鼠穴が観たかった。
有頂天家族 二代目の帰朝 森見登美彦
- 作者: 森見登美彦
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「なぜなら愛とは押しつけるものだからですよ」(淀川教授)
毛玉ファンタジー第2弾。たぬきと天狗と人間の、阿呆な争いがまた始まる。
赤玉先生の息子、通称二代目が京都に帰ってきた。弁天を跡継ぎにと考えていた赤玉先生、息子とは100年に渡る大げんか。たぬき会では新たな頭領、偽右衛門を決めるためあちこちで策略が繰り広げられる。
親を継ぐ、ということがこの作品のテーマだろうか。我らがたぬき4兄弟の長男矢一郎は父である先代偽右衛門のあとを継ぐため奔走する。対するは夷川早雲、あの手この手で自分の評を集めようと暗躍する。一方では、天狗にはならないと心に決めた二代目が赤玉先生と対立する。人間でありながら天狗の力を持つ弁天は、天狗親子を翻弄する。
古き良き「人間臭さ」に溢れるのがこのシリーズのいいところだ。「たぬき臭さ」とでもいうべきか。前作のしっちゃかめっちゃかな大あばれからすると、今作は政治っぽいテーマがあって少し真面目だ。個人的には前作の「京都の街を電車で走り回る」ようなバカバカしい展開が大好きだったので、ちょっと拍子抜けの感じ。ただ、兄弟それぞれの成長が見れたりして、ほっこりした気分になった。
どうやら3部作になるらしく、そこはかとなく伏線が散りばめられているようだ。終わり良ければすべて良し。次も読んで、兄弟たちをのほほんと見守っていたい。
羅生門 黒澤明
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「人の気持ちを考えてたらきりがねぇ!」(泥棒)
昔々、平安京の物語。羅生門で雨宿りする男たち。そのうち2人は、恐ろしい話を見聞きしたという。雨宿りのついでに話を聞こうという男が現れ、物語が語られる。それは1人の男の死についての奇妙な物語であった。
黒澤明の出世作。芥川龍之介の羅生門を下書きとしながら世界観を大きく広げた映画になっている。ストーリーもまるで違うが、テーマは原作と同じ。すなわち人の心であり、その闇を描いている。短編小説を90分の映画に拡大するの手腕は見事。
脚本もさることながら、出演者の演技がすごい。おどろくほどに自然だ。乱闘シーンなども、まるで本気で喧嘩しているようである。演技っぽさが全くない。
人は一体なにを信じて生きていけばいいのか。そんなことを深く考えさせられるいい映画だった。ドロドロしたストーリーでありながら、ラストシーンは希望に満ち溢れている。止まない雨はないのだ。
日本映画界は大ヒット漫画の実写映画を作るより、こういう映画を作るべきだ。日本人にしか出せない、心の機微ってものがある。そういう映画こそ世界が日本に求めているのではないだろうか。
まあだだよ 黒澤明
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先生は、いい加減なところもあるが教え子たちに慕われる恩師である。退職した先生のため、教え子たちは「まあだかい」という会を立ち上げる。月日は流れ、戦争を乗りこえ、先生と教え子たちの交流は続く。教え子たちに「金無垢」と称される先生の半生を世界のクロサワが脅威の感覚で描く。
この映画凄まじい。30代~以降の日本人は凄まじいものを感じるのではないだろうか。
映画で初めて泣きそうになった。この境地(?)に立った映画監督は未だ存在しないのではないだろうか。とにかく凄まじい領域に黒澤監督は達している。
人の愛情というものをクリティカルに描いた作品であるとぼくは感じた。また、この時代の日本人のアイデンティティというべきものを見事に表した作品であると思う。教師の学生に対する愛情、学生の教師に対する愛情をにじみ出ている。描かれるのは、実に平凡な日常の場面であるにもかかわらずだ。
黒澤明監督のプロット、演出のうまさ。役者さんたちの自然な演技に驚嘆した。所ジョージ、寺尾聰など、いまでこそ大御所の面々が出て来るところもおもしろい。黒澤監督の眼力恐るべしという感じであろうか。