続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

映画 立川談志 加藤たかし

「よそう。また夢んなる」(芝浜のサゲ)

落語界の化物、立川談志の晩年を見せるドキュメンタリー映画
高座の姿だけでなく、舞台裏のリラックスした家元の姿を観れるのが嬉しい。

落語というものに、立川談志というものに触れてみるいい機会となる映画ではなかろうか。映画の後半は談志の芝浜。人間らしさ、あるいは人間の業がにじみ出ている。でも、個人的には鼠穴が観たかった。

有頂天家族 二代目の帰朝 森見登美彦

「なぜなら愛とは押しつけるものだからですよ」(淀川教授)

毛玉ファンタジー第2弾。たぬきと天狗と人間の、阿呆な争いがまた始まる。

赤玉先生の息子、通称二代目が京都に帰ってきた。弁天を跡継ぎにと考えていた赤玉先生、息子とは100年に渡る大げんか。たぬき会では新たな頭領、偽右衛門を決めるためあちこちで策略が繰り広げられる。

親を継ぐ、ということがこの作品のテーマだろうか。我らがたぬき4兄弟の長男矢一郎は父である先代偽右衛門のあとを継ぐため奔走する。対するは夷川早雲、あの手この手で自分の評を集めようと暗躍する。一方では、天狗にはならないと心に決めた二代目が赤玉先生と対立する。人間でありながら天狗の力を持つ弁天は、天狗親子を翻弄する。

古き良き「人間臭さ」に溢れるのがこのシリーズのいいところだ。「たぬき臭さ」とでもいうべきか。前作のしっちゃかめっちゃかな大あばれからすると、今作は政治っぽいテーマがあって少し真面目だ。個人的には前作の「京都の街を電車で走り回る」ようなバカバカしい展開が大好きだったので、ちょっと拍子抜けの感じ。ただ、兄弟それぞれの成長が見れたりして、ほっこりした気分になった。

どうやら3部作になるらしく、そこはかとなく伏線が散りばめられているようだ。終わり良ければすべて良し。次も読んで、兄弟たちをのほほんと見守っていたい。

羅生門 黒澤明

「人の気持ちを考えてたらきりがねぇ!」(泥棒)

昔々、平安京の物語。羅生門で雨宿りする男たち。そのうち2人は、恐ろしい話を見聞きしたという。雨宿りのついでに話を聞こうという男が現れ、物語が語られる。それは1人の男の死についての奇妙な物語であった。

黒澤明の出世作。芥川龍之介羅生門を下書きとしながら世界観を大きく広げた映画になっている。ストーリーもまるで違うが、テーマは原作と同じ。すなわち人の心であり、その闇を描いている。短編小説を90分の映画に拡大するの手腕は見事。

脚本もさることながら、出演者の演技がすごい。おどろくほどに自然だ。乱闘シーンなども、まるで本気で喧嘩しているようである。演技っぽさが全くない。

人は一体なにを信じて生きていけばいいのか。そんなことを深く考えさせられるいい映画だった。ドロドロしたストーリーでありながら、ラストシーンは希望に満ち溢れている。止まない雨はないのだ。

日本映画界は大ヒット漫画の実写映画を作るより、こういう映画を作るべきだ。日本人にしか出せない、心の機微ってものがある。そういう映画こそ世界が日本に求めているのではないだろうか。

まあだだよ 黒澤明

 

まあだだよ

まあだだよ

 

先生は、いい加減なところもあるが教え子たちに慕われる恩師である。退職した先生のため、教え子たちは「まあだかい」という会を立ち上げる。月日は流れ、戦争を乗りこえ、先生と教え子たちの交流は続く。教え子たちに「金無垢」と称される先生の半生を世界のクロサワが脅威の感覚で描く。

 

この映画凄まじい。30代~以降の日本人は凄まじいものを感じるのではないだろうか。

映画で初めて泣きそうになった。この境地(?)に立った映画監督は未だ存在しないのではないだろうか。とにかく凄まじい領域に黒澤監督は達している。

 

人の愛情というものをクリティカルに描いた作品であるとぼくは感じた。また、この時代の日本人のアイデンティティというべきものを見事に表した作品であると思う。教師の学生に対する愛情、学生の教師に対する愛情をにじみ出ている。描かれるのは、実に平凡な日常の場面であるにもかかわらずだ。

 

黒澤明監督のプロット、演出のうまさ。役者さんたちの自然な演技に驚嘆した。所ジョージ寺尾聰など、いまでこそ大御所の面々が出て来るところもおもしろい。黒澤監督の眼力恐るべしという感じであろうか。

のほほん雑記帳(のおと) 大槻ケンヂ

人生は大いなる漠然とした不安との夫婦生活だ

またしてもオーケンのエッセイ。相変わらずのサービス精神で肩の力をふっと抜かせてくれる。

後半に『のほほん流読書のすすめ』というのがあり、オーケンおすすめの本をコメント付きで紹介してくれる。これがなかなか本の中身と関係なくて面白い。でもなんとなく、読んでみたいな、という気にはなるのだ。

ローグ・ワン

 

アート・オブ・ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

アート・オブ・ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

 

 

スター・ウォーズの外伝作品。ほぼ完全にジョージ・ルーカスの手を離れてディズニーが作る新しいスター・ウォーズ映画だ。

 

ストーリーはエピソード4の前日譚になっている。反乱軍は如何にしてデス・スターの弱点を掴んだのか。名も無き戦士たちの物語。いや、後付なのはわかっているけれど。ラストシーンでは旅立つレイア姫の姿が見られる。

 

全体的にファンサービスの精神に溢れる映画。というかスター・ウォーズ初見の人はついていけるんだろうか。おなじみのオープニングが無いので、冒頭では時間軸や情勢が今ひとつつかみにくい。「エピソード4の前日譚だ」という前情報なしでは苦しい感じがする。せめてエピソード4だけでも事前に見ておいたほうが良い。まぁ人気シリーズの外伝なので、そもそもファン以外は相手にしていないのかもしれない。

 

前半はローグ・ワン結成の物語。これがあまりいただけない。主人公ジンのもとに仲間が集まる理由がさっぱりわからない。テンポの早さもあって、たまたま行きずりであった連中が仕方なくチームを結成した感じになっている。仲間が少しずつ集まる、というのは物語のひとつの見せ場なのでもうちょっとなんとかならないだろうか。一人ひとりのバックボーンが薄っぺらいのだ。「七人の侍」のような、それぞれに理由ありの仲間が少しずつ集まるような面白さが欲しかった。

 

一転、後半の戦闘シーンはこれぞスター・ウォーズという感じで楽しめた。地上でのゲリラ戦、援軍の投入、空中戦、宇宙でのシールドを巡る攻防。様々な部隊が作戦を展開していく。スター・ウォーズ史上でもかなり盛り上がる戦闘シーンではないだろうか。

 

ところでこの映画は外伝、しかもエピソード4の直前なのでジェダイが全く出てこない。なのでストーリーや戦闘にフォースやライトセーバーはほとんど出てこない。そのせいか絵が全体にただの「戦争映画」の雰囲気が漂っている。フォースやライトセーバースター・ウォーズスター・ウォーズたらしめる要素として如何に大きいかが分かる。

 

全体としては愛に溢れたいい映画なのではないだろうか。様々な制約のある中でスター・ウォーズの世界観を広げるのに一役買ったいい映画だと思う。ただ、あくまでもシリーズを観てきたファン向けの映画なので万人受けしないだろう。今の子供が観ても楽しめないんじゃあないか。この辺、ディズニーはどういうつもりなんだろうか?