続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

ノラや 内田百閒

 

ノラや (1980年) (中公文庫)
 

内田百閒が飼う(ことになってしまった?)ネコ。彼はノラと名付けられ、内田宅を我が家のようにあるき回るが、大雨の夜に居なくなってします。それからの著者の心の内を、日記その他刊行物を通して読む一冊。 

 

日記というものの1つの完成形をみた気分だ。著者がノラを心配する心が、スッと読み手に伝わってくる。それは明解かつ繊細な言葉のチョイスと、思い出の中のノラの詳細な観察に基づくものだろうか。いずれにせよ、時代を超えて著者の生きる姿とその心のうちを伝えてくれる。案外、こういう文章こそ難しいものだ。

 

内田百閒という人をぼくは黒澤明監督の「まあだだよ」で知った。この映画では、内田百閒先生は教え子たちから「金無垢」と例えられていたが、この本から伺い知れる著者の姿もまた金無垢である。素朴で、純粋に、そして健やかに生きる。その希少な生を著者は生きていたのではないだろうか。時代と人柄の生んだ奇跡であるといえる。

 

読後には、なんだかぼくまでもノラに会いたくなってしまう。きっとこの本を読んだ人の中にそれぞれのノラが居着くことになるのだろう。