続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

名人に香車を引いた男 升田幸三

名人に香車を引いた男―升田幸三自伝 (中公文庫)

名人に香車を引いた男―升田幸三自伝 (中公文庫)

大山康晴名人とともに将棋界の一時代を築いた升田幸三の自伝。

なんとなく逸話は知っていたが、それでもとんでもないと思える破天荒な人生である。将棋界にこんな人生を歩んだ人は他にいないだろう。いや、日本中にもそうはいまい。

著者の燃え上がるような心意気と、時代の風を感じる一冊だった。一昔前には羽生善治名人という風が吹き、最近では藤井聡太7段が風を起こしている。しかし、升田幸三が活躍した戦前〜戦後にかけてに吹いていた時代の風はもっと複雑で吹き荒れていたようだ。将棋連盟自体もまだなく東西の連名に分かれており、名人も世襲制から実力制に変わる。タイトル戦も少なく、その規定も変わる。荒れ狂う暴風の中で勝負の世界に身を置く、当時の将棋指しの肚は凄まじい。

同時に著者の人柄がよく伝わる一冊でもあった。根のいいおっさん、というのが言葉の端々から滲み出ている。いい自伝だと思った。