続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

彼女はひとりで歩くのか 森博嗣

 

 

少し未来の日本。独立歩行者(ウォーカロン:Walk alone)が普及した時代。クリーンな細胞でから作られた人間に限りなく近い人工生命体であるウォーカロンは世界的な人口減少に対して一つの切り札であったのだ。一方、人工的に作られるクリーンな細胞は人間から寿命という概念を消し去った。身体のパーツを人工のクリーンな組織・臓器に交換しながら、理論上ヒトは死ぬことがなくなった。その一方、なぜかヒトの生殖能力は失われていった。主人公・ハギリは研究者。なぜか何者かに命を狙われることになった彼は、少しずつ世界の謎に迫っていく。

 

森博嗣版「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」といったところ。いや、僕は「アンドロイドは〜」をちゃんと読んだことはないんだけれど。映画「ブレードランナー」は観たので(そして名作だと思っているので)そっちのイメージが強い。

 

人工的に作られた何かが、人間と区別するのが困難になる時代。つまり、人間が人間(に限りなく近いもの)を作る時代はいつかきっと来るのだろう。人間は進歩することを止められないからだ。そして、その時代が1つのエポックになるのだろう。人間にとって大きな変化がもたらされる時である。それでも人間は生きていなかなくてはならない。一体何が起こるのか。SF好きならどうしても無視できないテーマだろう。

 

このテーマと切り離せないのが「人間とは何か」である。しかし、その疑問に取り組みつつ、この本ではその時代や社会情勢が断片的に掘り下げられるのが面白い。どんな思想があって、どんな集団がいて、その背景には何があるのか。あるいは些細な日常にも僕らの時代の現実から進歩した(あるいはただ変化した)ものがあるのか。

 

きっと30年後ぐらいには映画化されていると思う。多分ハリウッドで。下手に日本人監督が手をつけなければ、だが。きっといい映画になると思う。僕はそう願っている。