続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

イングロリアス・バスターズ クエンティン・タランティーノ

 

 

タランティーノ映画の良さとは何だろう。いくつかあるが、一つは超人が出てこないことだ。登場人物は皆普通の人間で、ただちょっと並並ならぬ強さを持っている。それは時にはかっこよく、時にはグロく、あるいは冷淡に描写されるわけだが、人間というよりも生物としての強さを描いているように思われる。

 

映画はどんなに頑張ってもファンタジーの域を出ない。それは所詮スクリーンに映し出されるだけのもので現実ではない。ドキュメンタリー映画もあるが、それだって映像化するために都合よく編集されたファンタジーに過ぎない。スター・ウォーズに始まるSFブーム以降。すっかり映画の主流はファンタジーになってしまった。別にそれ自体は悪いことではないが、映画には別の魅力もある。その魅力をしっかり引き出したのがこの映画ではないだろうか。この映画をアベンジャーズなどと比べることはできない。「おはぎとパスタ、どっちが美味しいですか?」と聞いているようなものだ。

 

この映画には群像劇としての魅力、そして人間のパワーを描くという魅力に溢れている。パルプ・フィクションの頃から監督が得意にしてきたことだ。第二次世界大戦を描き、ナチをアメリカ秘密部隊が追い詰めるという作品だが、実は正義も悪もどこにもない。ただ人間たちが闇雲に生きようとしているだけなのだ。暴力も、騙しも全て生きるための選択肢である。

 

それは人間社会の根っこに迫ったテーマなのかもしれない。そして、現実ではな決して触れられないテーマなのだ。映画にはそれができる。さすが映画マニア、タランティーノ監督だけあって映画もつパワーをよく理解しているというところだろうか。