続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

華岡青洲の妻

華岡青洲の妻 (新潮文庫)

華岡青洲の妻 (新潮文庫)

世界初の麻酔を使った外科手術を行った、日本が誇る医の巨人、華岡青洲。その妻なった人物を中心とした小説。麻酔開発の実験台に己の身体を使ってくれと夫に願い出る。果たしてその理由とは。

タイトルは「妻」だが実際の中身は嫁姑問題を中心に描かれる。いつの時代もこればっかりはどうしようもないものか。しかし、時代に名を残す偉人の周りでは、嫁姑問題も得意な形で進行する。

「家」という概念のあり方にも作中では丁寧に触れられている。現代の「個人」を中心とした世の中の捉え方と違い、華岡青洲の時代には個人は「家」のパーツであった。個人の浮き沈みよりも家の盛衰が大事であった。偉人は「家」が生み出すものだったともいえる。偉人を生み出すからには家の雰囲気も独特である。世の中から切り離されているわけではないが、浮世離れしている。かつての「家」の雰囲気をよく感じられる一冊だった。