続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

風立ちぬ 堀辰雄

風立ちぬ

風立ちぬ

風立ちぬ、いざ生きめやも。

宮崎駿監督と映画でお馴染みとなった一昨。原作には堀越二郎は関係ない。結核患者の嫁をもつ主人公の心情が淡々と、そして美しい景色とともに語られる。

戦前の貴族(華族?)文化を透明感ある文章で描いた作品。嫁である節子が結核患者であり、サナトリウムへ入るほどの重症患者でありながら、主人公と節子はお互いを慈しみ合う。まさに「愛」を描いた作品。

透明感の背景には、美しい風景描写がある。人の心を主題としながら、風景描写に力を入れるのは一見おかしいように思えるがそんなことはない。この風景描写は、主人公の私の眼を介した描写である。いかなる景色も主観によって脚色される。この作品に描かれる風景にこそ、主人公の心が反映されているのだ。そしてそこにある透明感は、主人公の澄みきった愛の現れなのだろう。

個人的に印象に残ったのは、衰弱した節子が山の影にお父様を思い描き微笑むところだ。主人公の私はその時なんとも言えない感情に襲われる。娘として父を慕う感情に、旦那としての地位を脅かされたのかもしれない。

心やすらかな終末を感じるいい作品だった。上品で軽やかな文章にも心惹かれる。うまく言えないがここに教養というものがあるのではないだろうか。