続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

カメラを止めるな 上田慎一郎

いろいろと話題の一作。やっと地方でも見ることができた。

全体とおして映画を楽しめる良作。アイデア自体はありがちだけど、見せ方が面白い。脚本がいいという評判はなるほどというところ。

表を整えるために裏ではドタバタ喜劇が進行する、という構図はありがちだ。三谷幸喜っぽい。しかし、多くの場合は時系列に沿って進む物語を、本作はラスト、つまり出来上がった「表」からスタートしたのがいい。またドタバタ劇の舞台としてホラー映画の撮影現場を選んだところも面白い。ホラー映画独特の妙な間や会話のおかしさを、いい感じに活かしている。

さて、ここまでなら「作りのいい映画」である。この映画がおもしろいのは、ドタバタ劇の中で本音をぶちまけていく登場人物たちだろう。理屈っぽい男優はトラブル続きの現場で理屈をふっとばして演技する、調子のいいことをいうだけの女優は、やけくそでまじの顔をみせる。クセモノ揃いの現場をまとめる監督はブチギレて言いたいことを言ってしまう。

このブチまける感じを日本人は求めているのかもしれない。SNSがやたらと進化した世の中で、みんないいたいことも言えないのだ。ポイズン。うかつな発言をすれば、あまつさえ文字に残せば、誰かが拡散し、どこかのだれかが文句をつける。世の中の全ての人が納得することなどまずないのだ。みんな抑え込んで生きている。

映画の登場人物は、みんな作中の映画の中でブチまける。現実では無理でも、映画の世界で、演技の中ならブチまけられる。それに爽快感を覚える人が多いのだと思う。

また映画作りの現場のおもしろさを感じられるのもいい。最近の映画は、特にハリウッドで顕著だが、映画を撮影している現場が想像できないものがおおい。CGなんかが進化しすぎて、もう俳優もいらないんじゃないかと思う。マーベル映画とか、やろうと思えばCGだけで作れるんじゃないだろうか。もちろん、それはそれで面白いのだが。どうやって映像を作るのか、8mm片手にあくせく奮闘している姿っていうのもいいと思う。映画って、もともとこういうもんなんだっていう、原点にたち帰るのもいいんじゃないだろうか。